【第七話:広がる噂と忍び寄る王宮の影】
アルフレッド様の孤独な夜を救った、月下の奇跡。
それは決して、屋敷の中だけの秘密では済まなかった。
「……お嬢様。少々、事態が騒がしくなってまいりましたな」
翌朝、セバスチャンが運んできた銀のお盆の上には、山のような招待状と、封蝋の押された重々しい書状が置かれていた。
「えっ? これ、全部私宛て……?」
「左様でございます。亡き先代夫人が現れたという噂は、一晩のうちに街を駆け抜け、ついには王宮の門を叩いたようでございます」
(異世界の口コミ、早すぎない!? まだ私、昨日の余韻でふわふわしてただけなのに!)
街の人々は「奇跡を起こす聖女が伯爵邸に現れた」と噂し、貴族たちはその力の源を求めて、目の色を変え始めているという。
そして何より問題なのは……。
「ラルム、中に入るんだ! 窓辺に立ってはいけない! 誰が君を覗き見ているか分かったものではないからな!」
ババッ! とカーテンを閉め切り、私の背後にぴったりと張り付くアルフレッド様。
昨夜の感動的な姿はどこへやら、今の彼は、宝物を狙う泥棒を警戒する猛獣のような目つきをしている。
「アルフレッド様、ちょっと近いです……。それに、隠れても噂は止まらないんじゃ……」
「分かっている! 分かっているが、君のその神々しい姿をこれ以上他人に知られるなど、私の心臓が耐えられんのだ! 王宮の連中め……ラルムの『綴る力』を、政治の道具にするつもりか!?」
アルフレッド様の危惧した通り、山積みの手紙の中には、国王陛下からの直々の「召喚状」が混ざっていた。
『奇跡を綴る者、その真偽を確かめるべく王宮へ出頭せよ』――。
「……嫌だ。絶対に行かせん。ラルムは私の妻として、この屋敷の地下にでも(物理的に)大事に隠しておくことにする」
「旦那様、不穏な発言はそれまでになさいませ。お嬢様の進化に合わせ、王宮用のドレスを新調してあります」
(セバスチャンさん、準備が良すぎるぅぅ!)
私の意思とは裏腹に、スキル【物語の主人公】の運命の歯車が、強制的に王宮へと回りだした。
「ラルム。……いいか、王宮では私の側を離れるな。もし変な王子や騎士が近づいてきたら、迷わず私の背中に隠れるんだ。分かったね?」
(あぁ……。王宮に行ったら行ったで、もっと面倒な『お約束イベント』が待ち構えていそうな予感しかしないんですけどぉぉ!)
こうして私は、もふもふパジャマを脱ぎ捨ててからわずか数日。
一国の命運を左右するかもしれない、華やかでドロドロな「王宮編」へと引きずり出されることになったのだ。




