五十七話 戻らない約束
神殿の中庭を渡り下級巫女の部屋まで歩く。
今後のために荷物を運ばなくてはならない。
中庭で、ルーナはアルトを呼び止めた。
「……帰ってしまうの?」
胸の前で握られた手は震え、瞳は不安でゆらゆらと揺れている。
アルトは一瞬目を見張った。
次いで嬉しそうに笑った。
「すみません、喜んではいけないと思うのですが……惜しんでくれましたか?」
ルーナが泣き出しそうになると、慌てて言った。
「泣かないで、ルーナ。私はこう見えて強欲なんです」
「あなたが生を終えるまで、アルトとしてあなたの側に居ましょう」
安心しましたか? と言われて、やっとの思いで頷く。
「では、私も安心させてくれませんか?」
アルトが眉を下げて言うから、ルーナは首を傾げた。
「ルーナ……愛しています。あなたが思うより、ずっと」
唐突に言われて、実感が遅れてついてくる。
時間差で染まるルーナの頬をアルトは愛しそうに見つめた。
そして小指をルーナに差し出した。
「いつか“私”の伴侶になって欲しい。あなたが長い生を終えたなら」
その、覚悟がありますか?
アルトは声なき声で聞いた。
「……この手を、取ったら」
「ええ、あなたは戻れません」
それでも、
「あなたが欲しい」
熱烈な告白だった。
ルーナはくらくらした。
「じゃあ、聖女になっても、ここに居てください。私に会いにきて」
ルーナは手を伸ばした。
「約束を守ってくれたら、いつか“あなた”の妻に」
ルーナの細い指が、アルトの小指に絡む。
ルーナは小さく笑った。
「でも、“アルト”さんはお嫁さんにって言わないんですね。ちょっと残念です」
なんて言うから、アルトはルーナを抱きしめた。
「それもいつか、とお約束しましょう」
彼は人間らしい表情で、笑った。




