五十五話 近すぎる帰路
暁光神殿への帰り道、アルトの距離は近かった。
歩調を合わせるでもなく、意識して近づいている様子もない。
けれど、少し腕を伸ばせば触れてしまいそうな位置に、ずっといる。
ルーナは、その距離にときめいて、
同時に、落ち着かなくなった。
安心しているのに、胸の奥がざわつく。
守られている感覚があるのに、それがいつまで続くのか分からない。
(この人は、いつまで私の側にいてくれるの?)
神殿に戻ったら、神さまとして帰ってしまうのだろうか。
書庫も、聖典も、もう背後にある。
ルーナは、初めてこの旅が終わらなければいいと思った。
次いで愕然とする。
(私、何と言うことを)
休憩の合図が出て、一行は道の脇で足を止めた。
神官たちは水筒を回し、簡単な点検を始める。
ルーナは、少し遅れて腰を下ろした。
石の感触が硬い。
それを確かめるように、地面に手をつく。
ルーナが地面に座ったまま不安げに視線を揺らすと、休憩中だったアルトは膝を折った。
「どうしました?」
ルーナは、咄嗟にアルトの外套の端を掴んでしまった。
「……いえ、何でも」
自分でしておいて、驚いた。
「あ……」
すぐに離そうとした。
けれど、指が言うことをきかない。
「……離さなくていいですよ」
アルトは、ルーナの手に手を重ねた。
体温がじんわりと伝わってきて、ルーナは泣きたくなった。
優しくされて嬉しい。
嬉しいのに、苦しい。
(神殿に戻ったら、どうなるの……?)
今は、このままで。
ルーナは考えを停止した。
遠くで神官たちが話す声。
鳥の鳴き声。
風が草を揺らす音。
全部が、ここにある。
(まだ、旅は続いてる)
休憩の終わりを告げる声がかかる。
ルーナは立ち上がり、
自然に、アルトの隣へ戻る。
距離は、相変わらず近い。
ルーナは、その距離を噛み締めた。




