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四十九話 扉の形
ルーナが足を止めたのは、通路の途中だった。
扉の形をしている。
正確には、扉を模した壁だった。
枠があり、把手がある。
鍵穴も、彫刻もある。
けれど、継ぎ目がない。
開く構造が、最初から存在していない。
足を止めた理由はない。
止まらされた感覚もない。
ただ、進まなかった。
(……ここだ)
声にしなかった。
確認もしなかった。
そうだと分かった、というより、
そうだと疑う理由がなかった。
灯りは変わらない。
空気も変わらない。
それなのに、
これ以上「先」を想像できない。
振り返らなかった。
振り返る必要が、もうなかった。
アルトは、何も言わない。
止めない。
促さない。
ただ、同じ距離にいる。
沈黙の書庫は、
ここで役目を終えていた。
迷わせることも、
通すことも、
もう必要ない。
あとは――
もう何も残っていなかった。
扉を開ける方法は、わからなかった。
だから、無理に探すのはやめた。
書庫に入ってから、初めて眠気を感じた。
ここなら、眠ってもいい気がした。
ルーナは扉にもたれて、目を閉じた。




