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三十五話 正しさの確信
「……これが、聖匙」
休憩の合間、ヴェロニカは掌に乗せた鍵を眺めていた。
金属は磨かれていて、光を鈍く返している。
「文献では、聖女の前に扉が現れるそうです」
神官の声は控えめだった。
事実を読み上げるだけの調子。
「そう」
ヴェロニカは短く応じ、旅で少しごわついた髪を撫でた。
指先に引っかかる感触が、ほんのわずかに気に入らない。
「早く神殿に帰って、身を清めたいわ」
砂埃のせいで、せっかくのドレスもくすんでしまった。
鏡を見るたびに、余計なものが付いている気がする。
「もうすぐ着くのね」
「ええ」
神官は頷いた。
そのやり取りだけで十分だった。
距離も、順序も、予定通りだ。
ヴェロニカは、もう一度、聖匙を見下ろす。
これが、最後の証明になる。
沈黙の書庫は、必ず自分を迎える。
――正しい者の前に、扉は現れる。
そうでなければ、巡礼そのものが成り立たない。
ヴェロニカは疑わなかった。
疑う理由が、どこにもなかったからだ。
沈黙の書庫が、
自分の“正しさ”を確かめてくれる。
それを、当然のように信じていた。




