二十八話 開くべき扉
燈に油が足された翌日。
村は、いつも通りに動いていた。
昨日と同じ朝。昨日と同じ音。
違うのは、話題だけだった。
「二つ向こうの村の……倉の扉、開いたそうだ」
井戸端で、そんな声が落ちる。
誰が言い出したのかは分からない。
「ええ? あの鍵は、ずっと合わなかったって噂の?」
「ああ。錆びてるって聞いてた」
声は低く、確かめ合うようだ。
驚きよりも、戸惑いが先に立つ。
「壊したわけじゃないんだと」
「順に、外しただけだって」
順に、という言葉が、妙に耳に残る。
「封を解いた、とも言ってましたね」
「……封印、なんて大袈裟なものじゃないでしょうに」
そう言いながら、誰も笑わなかった。
扉は、壊れていない。
鍵も、無理にこじ開けられていない。
ただ、
開くべきものが、開いた
それだけの結果が残っている、と。
ルーナは、その話を少し離れた場所で聞いていた。
噂話に混じらず、口も挟まない。
ただ、朝の空気を吸い込み、息を整える。
(……今日は、進めそう)
理由は、やはり分からない。
隣で、アルトが立ち止まった。
「次の村へ向かいます」
いつも通りの声。
けれど、その視線は一瞬だけ、村の噂話をしていた者たちへ向かった。
誰にも気づかれない程度に。
順序は、もう始まっている。
燈は役目を終え、
次は――
開くものが、待っている。
一行は、静かに歩き出した。
扉の話を、背に残したまま。




