アウトロダクション その1
華穂の発案による“呪能砲・全部載せ”により、碧海の予想通り境界域は更地と化した。
発射とともに意識を失った理久がそれを知ったのはICRで目覚めた時に冰雨から聞かされて、だった。
二年におよぶフェアレーヌたちの戦いはこうして終わったのだった。
ICRは管轄である東京の文科省へ引き上げた。
現在は冰雨と夜霧を中心に全記録集“深夢戦闘記”の編纂を始めとした残務処理を行っている。
本部のあった合同庁舎の地下フロアは、今は非常時用の資材倉庫になっているらしい。
ICRの一員である小雪も当初は東京へ向かうはずだったが、イヤユメ時空からの侵略を阻止したことによる褒章について国から希望を訊かれた際に、小雪当人とフェアレーヌの残り四人と先代ふたり、そして、功労者のひとりである理久の満場一致によって小雪の当地への残留が要望され、認められた。
ということで、小雪は文科省が秘密裏に用意したマンションで綺羅、瑠奈と一緒に暮らし、今も以前と同じ車原中央中学校へ通っている。
瑠奈の妹と弟は瑠奈の伯父夫婦に引き取られた。
児童相談所から初めて瑠奈の惨状を聞かされ、自ら申し出たという。
もちろん、伯父夫妻の生活環境や経済状態、ひいては人柄等々を冰雨の指示を受けた専属チームが精査したのち、瑠奈の承諾を経ての結論であることは言うまでもない。
颯は今でも陸上部にいるがその表情は明るく、髪も伸ばし始めている。
今回の失踪騒動が両親の認識を変えたらしい。
以前のようなプレッシャーはなく、競技そのものを楽しんでいるのだという。
もっとも、運動嫌いの理久には颯の言う“陸上競技を楽しむ”という感覚はさっぱり理解できないのだが。
失踪してから一年ぶりの帰宅となった碧海と蒼空は、未成年ということでメディアの取材――配信者によるストーキングや盗撮は別として――こそ自粛されたものの、警察へは何度か事件性の有無を明確にするための状況証言に呼び出されることになった。
しかし、当然のように事実を話すことはなく、ICRの用意したシナリオに沿った“家出”ということになっている。
もちろんこれは“あくまでも手続き上の処理”であり、実際にふたりがなにをやってきたか、なにを体験してきたかは文科省と警察庁の間で情報共有がなされていることは言うまでもない。
ちなみにふたりはフェアレーヌ5と同様に車原中央中学校に戻ったものの一年間の欠席によって留年となり、春休みが明けた新学年は華穂たちのクラスメートとして再スタートすることになっている。
なお、これが碧海と蒼空の要望だったとはいえ日本の中学において留年というケースは原則として存在しない。
にも関わらずそれが叶ったのはICRの上位機関である文科省からふたりへの“一年間の長きにわたって境界域から救出できなかったことに対する罪滅ぼし”の意味合いがあるのかもしれない。
理久も、元の高校に戻った。
理久をICRに引き入れるための擬装に使われたデッチアゲの“文科省のプロジェクト”は、たまたま同時期に起きた内閣総辞職の余波を受けて保留となり再開の見通しは立っていない――ことになっている。




