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第9話 夢見る脳髄 その10

「あと少しでこの身体――クリスタルメーカーが大爆発を起こす。そして、オレサマもオマエらも全員が死んでいなくなった境界域がイヤユメ時空との接触面に覆われる。そうなったらイヤユメ時空からの浸食が“夢の中”を経て、現実世界へ一気に爆散するんだぜ」

 碧海が舌打ちとともにエアブラシを構える。

 その姿が見えているのだろう、索漠の口調が挑発的なものへと変わる。

「お? とりあえずさっきみたいに“壁を溶かしてクリスタルメーカーから脱出しよう”ってか? 無理だね、無駄だね。この部屋は蒼空を捕らえていた神経叢室とは違ってクリスタルメーカーの最奥部だぜ。壁を溶解したところで外へ出るのにどれだけ時間がかかるのかなあああああああああ?――だぜ」

 不意に落ちてきた天井の一部が床で砕けた。

 索漠の言葉に合わせて理久たちを絶望の淵へ追いやるように。

「今度こそ終わりだぜ。そろそろオレサマの意識の残渣も消失するんだぜ。オマエら全員が地獄へ来るのを待ってるぜ……」

 終わった索漠の声に、碧海が舌打ちとともに構えたエアブラシを下ろす。

「やっと逝きやがったか」

 今や部屋全体を揺るがせている衝撃と振動はその間隔を狭め、明らかに強くなってきている。

 室内に響くのは足下からの爆発音、そして、天井から落ちた瓦礫が床で砕ける音。

 その中で綺羅が叫ぶ。

「全員、私のそばに集まるのですわっ」

 いきなりの言葉に意図が読めず、蒼空までもが首を傾げる。

 しかし、綺羅は構うことなく続ける。

「私と理久で爆裂型呪能砲を撃ちますわ。よろしくて?」

 意図を悟った蒼空がつぶやく。

「相殺フィールド?」

 綺羅が蒼空へ頷いて続ける。

「私の爆裂型は周囲の全方位に威力を発揮する分、発射と同時に展開される相殺フィールドでそのダメージを無効にしますの。それをバリア代わりにすればクリスタルメーカーの暴走爆発から身を守れるはずですわ」

 その案を補足したのは碧海。

「フェアレーヌの呪EL銃と兄いの呪能砲を組み合わせた時は、呪EL銃単体の時よりも威力が増すことはすでに実証済みだしな。当然、破壊力に応じて効果が増減する相殺フィールドも綺羅だけが撃った時よりも増強されるだろう」

 そこへ颯が――

「でも、相殺フィールドって“フェアレーヌ(わたしたち)”だけの効果だよね」

 ――と言って理久を見る。

 その言葉は先代を含めたフェアレーヌの七人には相殺フィールドが展開するが理久にはそれがないことを意味している。

 すかさず綺羅が答える。

「だから全員のフィールドを干渉させて理久を守るのですわ」

 全員の視線が理久に集中する。

 “私たちを信じてっ!”と訴えかけるように。

 理久が改めて綺羅を見る。

「よしっ、やろうっ」

 そこへ華穂が――

「はいっ」

 ――座ったままびしいっと手を挙げる。

「あたし、考えたんだけど」

 視線を集中させる全員を代表して綺羅が問い掛ける。

「なにをですの?」

「どうせなら綺羅ちゃんのだけじゃなくて――」

 華穂の目線がぐるりと周囲を見渡し、最後に動かない小雪に落ちる。

「――全員の呪EL銃を乗っけたら、すごくなると思わない?」

 蒼空が周囲の壁に投影されたままの外の様子を見上げる。

「試す価値……あり」

 碧海もまた黒円が次々と出現し、拡大を続けていく様子に目を細める。

「うまくいけば接触面も全部吹っ飛ばして、境界域を更地にできるかもな」

 颯がつぶやく。

「でも、それって……やったことないよね。……うまく行くかな」

 瑠奈が両手をぎゅっと握る。

「でも、やらなきゃです。あたしたちが」

 理久が綺羅のかたわらに立つ。

「とにかくやろう。どうせ他にできることはないんだし」

 華穂が全員を鼓舞するように声を上げる。

「絶対、大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫……あ」

 言ってから綺羅を見て気まずい表情になる。

 そんな華穂に綺羅が平然と告げる。

「大丈夫でしょう。これまでも華穂が言えば大丈夫だったんですから」

 そう言ってしゃがみこむと華穂の手を握って微笑む。

 そこへ瑠奈が声を上げる。

「小雪ちゃん?」

 華穂が慌てて目を落とす。

 ヒザの上で小雪が震えている。

「小雪……も、やる……にゃん」

 華穂と綺羅が声を掛ける。

「小雪ちゃんっ」

「大丈夫ですのっ?」

 小雪の唇がたどたどしく動く。

「索漠の意識が消えた……から……帰ることは……できるにゃん。でも……もう、時間がない……にゃん」

 その言葉に理久は考える。

 まもなく境界域はイヤユメ時空と地続きになるのだろう。

 たとえ自分たちがICRへ帰還できても、境界域がイヤユメ時空と地続きになってしまえばもうイヤユメ時空からの侵攻を止めることはできない。

 事態は想像以上に切迫しているらしい。

 ICRへ撤収する猶予もないほどに。

 あえぐような息の小雪の額に瑠奈が手をあてる。

「熱が……」

 碧海がため息混じりにつぶやく。

「身体が、いじられた神経系を治そうと必死なんだろう」

 そして、続ける。

「短時間とはいえ神経系への介入を受けてたんだからな。索漠の介入が消えても全快復には時間がかかるか」

 蒼空がヒザをついて小雪に顔をよせる。

「無理するな、小雪。安静にしてろ」

 しかし、小雪は荒い息の下で答える。

「心配いらない……にゃん。ちゃんと……責任持って……みんなを……ICRへ……送り返すにゃん。だから……だから……」

 そして、ぽろぽろと涙をこぼす。

「小雪も……仲間……にゃん。一緒に……やらせてほしい……にゃん」

 華穂と綺羅がそれぞれ小雪の左右の手を握る。

「もちろんだよ」

「当然、一緒ですわ」

 激しさを増す震動と天井が崩れ落ちてくる中で中腰になった理久が左手を差し出して促す。

「時間がない。やろう」

 瑠奈と颯が理久の左手にそれぞれの手を重ねる。

 綺羅と華穂が互いに頷き、小雪の手とともに自身の手をその上に重ねる。

 そして、その様子を蒼空と碧海が見守る。

「頼もしい妹たちだな」と微笑む碧海。

「異論なし」と無表情の蒼空。

 綺羅が華穂を見る。

「発射の合図は華穂。よろしくですわ」

 華穂は綺羅に頷くと、瑠奈、颯、小雪、そして、理久を見渡す。

「じゃあ行くよ」

 すうと息を吸って――。

「“呪能砲・全部載せ”、発射っ」

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