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第9話 夢見る脳髄 その8

 部屋を出て廊下の分岐や階段に差し掛かる度に「じゃあ、私はこっち」「気をつけてね」などと声を掛けて分かれていく碧海、蒼空、小雪、綺羅、瑠奈、颯の勢いに乗せられて、いつしか理久もひとりで薄暗い石畳の廊下を走っていた。

 碧海が索漠を消して以来どこにも寄生虫の姿は見えないが、それでも、ひとりでいると“今いる場所が敵の本拠地である”ということを再認識し、忘れていた不安感がよみがえる。

 なにしろ、華穂を捜索している七人の中で自分だけが武器を持っていないのだ。

 調子に乗って分かれたが、誰かと一緒に行動してもけして非難されることはなかっただろう。

 とはいえ――。

「あああああああっ」

 声を上げて頭を振る。

 いまさらそんなことを考えてもどうしようもない。

 とりあえず今やらねばならないことは“大至急、華穂を見つけ出して、全員でここから脱出すること”なのだ。

 それだけに集中して、目についた扉を片っ端から開いて中を覗く。

 それらは“なにもない空き部屋”か、あるいは理久にはそれがなんなのか想像もつかない“巨大な機械を収めた部屋”ばかりだが、いくつめかの扉を開いた時、それまでとは違う室内の様子に違和感を覚えて目を凝らす。

 そのけして広いとは言えない部屋には、破壊されたシングルサイズのベッドだけが放置されている。

 もちろん、理久はこの部屋が“碧海が宵闇として一年間を過ごした部屋”であり、ベッドは“慄冽が宵闇(本物)を探して回収するために破壊したもの”であることを知らない。

 “他とは違う変な部屋”という違和感の中で、理久は室内に華穂がいないことを確かめて廊下へと戻る。

 そして、次の扉を捜して自分の影がゆれる石造りの廊下を走る。

 次に見つけた扉の先は“さまざまな機械設備や実験器具が乱雑に置かれた部屋”。

 部屋の中央には、叩き壊したらしいパソコンの残骸が散乱するテーブルがあり、その周囲には索漠の脳髄を浮かべていたのと同じガラス容器が空の状態でいくつも並べられている。

「なんだ、ここ」

 つぶやいた次の瞬間、目に入った“テーブルの下に転がる死体”に心臓を掴まれたような衝撃を受けて立ち尽くす。

 しかし、それは“死体”ではなく“等身大の機械人形”だった。

 もういやだ、こんなとこ。早く出よう――そんなことを考えて“ごちゃごちゃと視界の悪い部屋”で声を上げる。

「華穂ちゃんはここにはいないよなあっ」

 耳を澄まして返ってくる静寂に追い立てられるように部屋を出て、次の部屋を探す。

 そしてたどり着いた観音開きの巨大な扉を押し開ける。

 巨大な扉にふさわしい広さの部屋だが、中央でなにかが山積みになっていて奥の様子はわからない。

 おそるおそる“なにかの山”に歩み寄り、目を凝らす。

 それは“壊れた機械や機材(スクラップ)”の山だった。

 さっきの部屋と同様に華穂の名を呼ぼうとするが、スクラップ山の頂上でなにかが動いた気がして思いとどまる。

 寄生虫の生き残りか、あるいは未知の敵か。

 なにがいてもおかしくはない状況であることを思い出し、なにか武器になりそうなものはないかとスクラップ山の麓に目を這わせる。

 棒状のものがあれば振り回そう、持ち上げられるものがあれば投げつけよう、なにかないか、なにかないか、なにかないか……。

 その時、また頂上で動く気配があった。

 思わず全身を硬直させて息まで止める。

 “こうすることで気配を消せれば”などと考えた時、頂上で動いたものがささやきかけた。

「理久だにゃん?」

 その声を聞いて理久の全身から力が抜ける。

「小雪ちゃんかあ」

 自覚はないがよほど緊張していたらしく、その場にがくりと腰を落として安堵の息をつく。

 そんな理久のもとへと、小雪がスクラップの斜面をがらがらと崩しながら降りてくる。

「華穂を捜してたら呪EL反応を感じたから“もしかして”と思って掘り返してたにゃん。で、出てきたのはこれにゃん。はい」

 差し出したのは寄生虫に没収されたリストバンドだった。

「おおっ」

 受け取って早速装着する。

 やはりあるのとないのとでは安心感が違う――と、それだけでテンションの上がった理久が小雪の手を握る。

「小雪ちゃんっ、ありがとうっ」

 小雪も笑顔を返す。

「どういたしましてだにゃん」

 そこへ遠くから声が聞こえた。

 理久の耳にははっきり聞こえなかったが、小雪には聞こえたらしい。

 一転して真顔になった小雪が扉へと走る。

「颯ちゃんが見つけたみたいだにゃん、急ぐにゃん」

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