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第9話 夢見る脳髄 その2

 全員が土埃にまみれた戦闘服ミニドレスで、顔や髪まで汚して憔悴した表情を浮かべている。

 なにがあった?

 なぜここに?

 わからないことばかりで混乱する理久に瑠奈が答える。

「華穂ちゃんが……あたしたちの身代わりに……」

 さらに颯と綺羅。

「私たちを解放する代わりにクリスタルメーカーの中へ取り込まれて……」

「先方にとってはゲートピースを回収してしまえば私たちに用はないのですわ」

 語る綺羅の消沈振りはこれまで理久の見てきた彼女からはまるで想像できないものだった。

 その様子からフェアレーヌたちの“完全なる敗北”を理解した理久がおそるおそる尋ねる。

「……碧海は?」

 答えたのは綺羅同様に、疲れ切った表情を初めて見せる小雪。

「碧海ちゃんも……捕まったにゃん」

 理久が問い返す。

「捕まった? ということは無事なのか?」

「無事なのはまちがいないにゃん。そこでクリスタルメーカーから言付けがあって……。理久を呼べと」

「僕?」

 思わぬ展開に理久が耳を疑う。

「クリスタルメーカーが……僕に来い、と?」

 頷いた小雪が念を押すように繰り返す。

「クリスタルメーカーが理久に来させろって……にゃん」

 そして、瑠奈を見る。

 その目線を受けた瑠奈が――

「理久さん……これです」

 ――理久に長さが十五センチほどある獣の牙のようなものを差し出す。

「これが“招待状”って言ってました」

 理久は“それ”に目を凝らす。

 見覚えはあるが、これがなんなのか思い出せない。

「これ……て、なんだっけ?」

 綺羅が答える。

「慄冽の……タカアシガニの爪先ですわ」

 理久は目を落とした爪先を握りしめ、確かめるようにつぶやく。

「これが、招待状?」

 小雪が横から補足する。

「その爪先には、すでに小雪たちが離れた理久の肉体を境界域へ誘導する機能があるらしいにゃん」

「なるほど、文字通りの“招待状”だ」

 納得した理久がひとりごちる。

「これがあれば境界域へ行ける。碧海や華穂ちゃんが捕まっている境界域へ」

 小雪、綺羅、瑠奈、颯が頷く。

 明らかに理久に助けを求めている目で。

 そこへ夜霧が――。

「とはいえ、今の境界域はこれまでとは様相が違ってるっす」

 理久はその一言に冰雨の言葉を思い出す。

「確かに冰雨さんはイヤユメ係数がどうのって言ってたけど……。どういう意味ですか」

 夜霧がため息をひとつ挟んで答える。

「慄冽は最終態のクリスタルメーカーによって綺羅と瑠奈と颯、さらに、今回は華穂のゲートピースを回収することに成功してるっす」

 理久は最初の昼休みからの展開を思い出す。

 昼休みにナンバー四四を倒したあと、一年ぶりに覚醒したクリスタルメーカーによる結晶化を唯一免れた華穂が理久の親指になった。

 その後、人差し指に小雪、中指に颯、薬指に――宵闇を経て――綺羅、そして、小指に瑠奈と順次、奪還してきた。

 しかし、その後、クリスタルメーカーが最終進化を遂げて撃ち出した極太漆黒ビームで颯と綺羅と瑠奈を奪い返され、そして、碧海や小雪とともに救出に向かった華穂が身代わりとなった……。

 夜霧が続ける。

「そうやってこれまで収集してきた四つのゲートピースを解析して、それを元に“代替ゲートピース”の開発に成功したようっす。そして――」

 顔を伏せ、テーブルにこぶしを叩きつける。

 その姿に理久は目を見張る。

 これまでそんな激しい面を見せることはおろか、匂わせることすらなかった夜霧の姿に。

「――綺羅、颯、瑠奈から前回回収した三つと、今回身代わりになった華穂から回収した計四つ、そして、代替のゲートピースを合わせた五つでイヤユメ世界とのトンネルを次々と開けてるっす。五つ目が本物じゃない代替なので、多少、時間がかかってるっすけど」

 そして、理久を見る。

「それが今の境界域の状況っす。それでも理久くんは……行ってくれるっすか」

 理久は考えるまでもないと即答する。

「当然、行きますよ。あっちが来いと言ってるなら。いや、言われなくても碧海が捕まってる以上は」

 そして、自身の左手首を右手でばしばしと叩く。

「“あれ”はどこですか?」

「ここにあるっす」

 夜霧が白衣のポケットから取り出した“あれ”――呪能砲発射装置リストバンドを手渡す。

 受け取った理久は装着すると同時に懐かしさとともに、力がみなぎるのを感じる。

 夜霧が小雪、颯、綺羅、瑠奈を見渡す。

「みんなはどうするっす?」

 最初に手を挙げたのは小雪。

「小雪は当然、行くにゃん」

 頷き、微笑む夜霧が小雪に水晶玉カートリッジを差し出す。

 受け取ると同時にそれは弾けて小雪に吸収され、小雪の戦闘服を自動修復する。

「ふっかーつ、だにゃん」

 さっきまでの困憊した様子から一転して有り余る元気をもてあますように両手でツインテールをぐるぐると振り回す。

 その変貌振りに呆気にとられる理久をよそに颯と瑠奈、そして、綺羅が次々と手を挙げる。

「あの、私も……行っていいですか」

「あたしも行きます」

「もちろん、私も行きますわ」

 夜霧からそれぞれに渡された水晶玉はすぐに弾けてそれぞれの身体に吸収され、それぞれの戦闘服を回復させる。

「これで完全復活だにゃんっ。へいへいへいっ」

 四人はまるで花が咲いたように明るくハイタッチを交わす。

 その姿に一瞬気分が明るくなった理久だが、やはり、ここに華穂がいないという現実に気付いてどうしようもない寂寥感を覚える。

 夜霧はそんな寂しげな理久にささやく。

「それぞれとの連携撃ちはみんなが理久くんの指と一体化してた時と同様に使えるっす」

 理久にすればこれほど心強い話はない。

 思わず――

「ありがとうございますっ」

 ――と顔を向けるが、夜霧はすでに理久のもとから離れて綺羅に声を掛けている。

「綺羅にはひとつお願いがあるっす」

 綺羅はワンレンをかき上げて夜霧を見る。

「なんですの?」

「これを持って行ってほしいっす」

 夜霧がもうひとつの水晶玉を差し出す。

「わかりましたわ」

 意図は聞くまでもないと綺羅が受け取る。

 水晶玉はその手のひらを弾けることなく転がる。

 その様子に――

「あれ? 弾けないんだ」

 ――思わずつぶやいた理久に、戦闘準備のつもりか、それともじっとしていられないのか、颯に倣ってストレッチをしている小雪が補足する。

「あれは華穂の分だにゃん」

 ということは……――理久が小雪に問い返す。

「碧海と蒼空ちゃんの分は」

 当然このふたりの分も持っていく必要があるのではないのか?

 小雪が両手足とツインテールをふるふるさせながらにっこりと答える。

「あのふたりの分なら必要ないにゃん」

「そ、そうなのか?」

 考えてみれば、華穂は“フェアレーヌ5”のひとりだが、碧海と蒼空は“先代”であって“フェアレーヌ5”ではない。

 そのあたりに事情のちがいがあるのかもしれない。

 理久がそんなことを思った時、夜霧が理久、小雪、颯、綺羅、瑠奈を見渡して頭を下げる。

「よろしくお願いするっす」

 小雪が理久を見る。

「じゃあ行くにゃん」

 理久は声を上げる。

 自身を鼓舞するように。

「よおおおおおおおおしっ、行こうっ」

 同時に開けっ放しだった扉から飛び込んで来たのは――冰雨。

「理久くん、お待たせしました。帰りの自動車クルマが……」

 続く言葉を理久が遮る。

「いや、妹を連れてくるんで待っ――」

 その言葉を言い終えぬまま理久の姿は境界域へと消えた。

 華穂を除いたフェアレーヌ5とともに。


 残された部屋で冰雨が夜霧を問い詰める。

「夜霧、これはどういうことですか」

 夜霧は頭を下げる。

「勝手なことして悪かったっす」

 そして、顔を上げることなく続ける。

「みんなそれぞれの意思っす。それぞれの意思でそれぞれの大切な者を迎えに行ったっす」

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