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第9話 夢見る脳髄 その1

 三人が出発して、いつもの個室に戻った理久は落ち着かない時間を過ごした。

 静けさの中でじっとしていられずにテレビを点けてみる。

 そこではどのチャンネルもいつもとなにひとつかわることなく、平和な日常を象徴するような番組やコマーシャルを流し続けている。

 もちろんニュース番組も例外ではない。

 そんな現実に少し不快感を覚える理久だが、自分自身もずっとこの日常になんの疑問も抱かずどっぷりとつかってきたのだ。

 妹たちが戦い続けているというのに――知らぬこととはいえ。

 そんな自分に、イヤユメの存在を知らない世間が平穏の中にいることを責められるはずもない。

 テレビを消してベッドに飛び込み、そして、この数日間を反芻する。

 茶碗蒸しバーガーを食べて昼休みに昼寝して、そこで境界域へ迷い込み華穂と出会った。

 冰雨、小雪、夜霧、颯、綺羅、瑠奈……。

 索漠、宵闇、慄冽、何体ものト・ドゥーフ剣……。

 そして、ようやく果たした碧海との再会と謝罪。

 あっという間の日々を思い返す。

 そして、妙に静かなことにいまさら気付く。

「ああ、そうか」

 その静けさを破ろうと、あえて声に出す。

 今の理久は久しぶりに“ひとり”なのだ。

 目の前にかざした左手をぼんやりと眺める。

 華穂、小雪、颯、綺羅、瑠奈。

 なりゆきとはいえ、一時的にではあったが文字通り身体を共有した五人の少女たちはもういない。

 認めたくない寂しさを振り払おうとあえて乱暴に左手をベッドに下ろす。

 その時、備え付けのインターホンが電子コール音を鳴らした。

 初めての呼び出し音に理久は飛び付く。

 冰雨に違いない。

 冰雨が作戦終了を――碧海と華穂と小雪が全員を救出して、そして、慄冽とクリスタルメーカーを倒し、イヤユメ界の侵攻作戦を終結させたことを伝えようとしているに違いない。

 押した“通話”のボタンがグリーンの光を放つ。

 喉に絡まる痰を切りながら――。

「理久です」

「冰雨です――」

 そして、ぽつり。


「――失敗しました」


 思わぬ言葉に耳を疑う暇も与えず続ける。

「詳しい状況はわかりません。でも、境界域のイヤユメ係数が臨界値を超えてます。これからここを引き払って東京の対策本部へ全機能を移管します。理久くんも家へ帰る準備をしてください。公用車でお送りしますので」

 インターホンの向こうで悲鳴とも怒声とも聞こえる職員たちの声が割り込み、通話が切れた。

「いや、あの……」

 さっきまで点灯していた“通話”のグリーンが消灯したインターホンに声を掛けるが返答はない。

 理久は力なく受話器を置くと、狙撃でもされたように背中からベッドに倒れ込む。

 いつも以上に感じる静寂の中で、脳裏を冰雨の言葉がぐるぐると走り回っている。

 失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗……。

 なにがあったか聞いたところでどうせ理久には理解できないのだろう。

 だから冰雨も伝えなかったのだろう。

 碧海はどうなった?

 華穂はどうなった?

 小雪はどうなった?

 三人の笑顔が頭の中を駆け巡る。

 その時――ドアが開いた。

「碧海っ?」

 理久は叫んでいた。

 しかし、そこに立っていたのは――夜霧だった。

「夜霧さん」

 予想外の来訪に戸惑う理久へ、夜霧は突き立てた人差し指を自身の唇に当てる。

 そして、室内を見渡して理久しかいないことを確かめると扉の陰に向かって手招きする。

「いいっすよ。早く入るっす」

 夜霧の声を受けて部屋へ入ってきたのは

 小雪

 と

 綺羅

 と

 瑠奈。

 そして、

 颯だった。

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