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第8話 涙のかかと落とし その5

「というわけで、あたしも行きますっ」

 合同庁舎の地下フロアにある“ICR中央管制室”で宣言するワンピース姿で杖をついた華穂を、冰雨と夜霧、そして、すでに制服からミニドレス風の戦闘服バトルモードに切り替え済みの碧海がぽかんと見つめる。

 そんな“なにがあった?”と言わんばかりの三人とは対照的に――

「わーい、行くにゃん行くにゃん」

 ――と、躍るように飛び跳ねているのは碧海と同じくミニドレス姿の小雪。

 その様子をにこにこと見ている華穂のとなりで、理久は初めて訪れた管制室を見渡す。

 テレビで見たNASAの管制室をぐっと小規模コンパクトにしたようなその部屋にはいくつもの計器がならぶ制御盤や操作卓が置かれ、荒いノイズ混じりのモノクロディスプレイには“触手の躍る境界域の光景”が途切れ途切れに映し出されている。

 ここでは十人ほどの職員が働いているが、もちろん、理久には彼らがどういう役割でなにをやっているのかは想像することすらできなかった。

 そんな室内を興味深げに眺めている理久とそのかたわらで小雪とハイタッチを交わす華穂を、冰雨は心配そうに見比べる。

「あの……大丈夫ですか?」

 華穂が答えるより早く碧海が笑う。

「大丈夫だろ。見りゃわかる」

 その言葉に冰雨は納得したように頷き、華穂の手を握る。

「では、改めて、よろしくお願いします」

「はいっ」

 華穂が答えてその場でターンすると全身がまばゆい光に覆われる。

 その光の中で杖が消失し、義足が素足となり、ワンピースが戦闘服に替わった。

「完全復活だにゃん」

 以前のままの華穂の様子を見て瞳を輝かせる小雪の横から、夜霧が告げる。

「碧海にも話したけど、索漠によるアクセス妨害のキャンセルについては小雪の頭に全部ぶっこんであるっす。心配無用っす」

 小雪が大げさにツインテールの頭を振り回す。

「ぜーんぶ入ってるにゃん。ちょっと頭が重いにゃん」

 その様子に笑う碧海へ理久が声を掛ける。

「碧海」

「あ?」

 理久は正面から碧海をまっすぐに見る。

 そして、告げる。

「待ってるから。一緒に家へ帰ろう。約束な」

 碧海も真顔で答える。

「うん。約束だ」

 そして、左右のピアスを外して理久へと差し出す。

「帰ってくるまで預かってて」

 しかし、理久はためらう。

「いや、でも、これって……」

 その様子に碧海が理久の心中を察する。

「形見になるとでも思ってる? 死亡フラグみたいな」

 図星の理久は黙って頷く。

 碧海が笑う。

「ちげーよ。“絶対に帰ってくる”っていう約束の証しに、だよ」

「約束……」

「これを兄いが持ってる限り私は“なにがあろうと兄いのとこへ帰らなきゃ”って考える。だから、どんな絶望的な状況でもがんばることができる。そういう意味だよ」

 その言葉に理久はようやく手を伸ばす。

「そういうことなら……まあ」

 碧海は“わかってくれた?”とばかりに満足げな笑顔でその手にピアスを乗せる。

 そして、小雪と華穂を見渡して声を上げる。

「じゃ、行くかあっ」

「はいっ」

「れつごーだにゃん」

 冰雨と夜霧、そして、ピアスを握りしめる理久の前で――三人の姿が消えた。

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