第7話 現れた最終態と明かした本心 その6
夢の世界ゆえか痛みを感じない理久は呆然と足元に転がる三本の指を見下ろす。
それは“中指”の颯、“薬指”の綺羅、“小指”の瑠奈。
“親指”の華穂が悲鳴を上げる、“人差し指”の小雪が息をのむ。
理久が三本の指を拾おうと右手を伸ばす。
そこへ百メートルの距離を超えてクリスタルメーカーの触手が突きだされる。
「理久っ、あぶないにゃんっ」
その触手を回避するべく小雪が理久の身体を振り回す。
触手をかわした理久の身体はバランスを崩し、そのまま数メートル後ずさりして仰向けに転倒する。
どこからか慄冽の笑い声が響く。
「見るがいいざます。これがクリスタルメーカーの最終態ざます」
土埃を巻き上げて割ける大地からクリスタルメーカーが全体像を表す。
その姿に華穂と小雪が目を見開き、理久がつぶやく
「これがクリスタルメーカーの真の姿……、最終態」
それは巨大なイカそのものの姿だった。
巨大イカとしての姿を現したクリスタルメーカーは改めて三本の触手をさっきまで理久が立っていた位置へと伸ばす。
そこに転がっているのは颯、綺羅、瑠奈。
理久が慌てて立ち上がり、飛び付くように三人へ右手を伸ばす。
しかし、クリスタルメーカーの伸ばした三本の触手が理久の伸ばした右手より一瞬早く三人を掠め取る。
「持って行かせるかあっ」
叫んだ理久が呪能砲を撃とうと左手を向ける。
しかし、呪能砲の発射口となっていた手のひらが存在しない、撃つことができない。
そんななにもできない理久と華穂と小雪に見せつけるように、クリスタルメーカーは自身の体を触手で持ち上げて地面から浮き上がると、体の真下――十本の触手の中央に位置する鋭いクチバシを露出させる。
その動作にクリスタルメーカーの次なる動きを察した小雪が声を上げる。
「まずいにゃん」
同じことを連想した華穂と理久が同時に絶叫する。
「やめてえっ」
「三人を放せっ」
慄冽の声が冷たくささやく。
「まずは綺羅と颯と瑠奈の三人……ざます」
クリスタルメーカーがクチバシを開いて、触手に捕らえた三人をその奥へと押し込む。
「綺羅ちゃん、瑠奈ちゃん、颯ちゃん」
華穂が泣きながら三人の名を呼ぶ。
これまでずっと明るかった華穂だけにその悲痛な叫びが理久の心を深く抉る。
しかし、今の理久にできることはなにもない。
ただ、クリスタルメーカーを見上げることしかできない。
同様に見上げていた小雪がつぶやく。
「なにかおかしいにゃん」
理久も気付く。
クリスタルメーカーの体表――イカに例えれば胴体の表面に散らばっていた斑紋が、まるで小さな虫のように動き出している。
なにが起こる?
なにをしようとしている?
目を見張る理久と小雪の前で斑紋が集まり巨大な模様を描き出す。
「あれって……まさか」
絞り出す理久の見ている前で斑紋が集まって形成した模様は――綺羅の顔だった。
「綺羅ちゃんだにゃん」
驚きを隠さない小雪のとなりで華穂が叫ぶ。
「綺羅ちゃん、大丈夫だよっ。今、助けるからっ」
しかし、理久はどうしていいのかわからない。
リストバンドこそ残っているものの呪能砲の発射口である左の手のひらはすでにない。
そして、気付く。
“どうしていいのかわからない”のではなく“どうしようもない”ということに。
そこへ不意に投げかけられる声。
「……華穂」
その声に合わせてクリスタルメーカーの胴部に斑紋で描かれた綺羅の口が動く。
本当に発声しているのかあるいはテレパシーのようなものなのかは理久にはわからない。
それでも、その言葉が綺羅のものであることを理久は本能的に察知する。
綺羅を見上げた華穂がつぶやく。
「綺羅……ちゃん」
クリスタルメーカーの体表で自由を奪われて磔になっているような綺羅の姿は、ある意味では“さらし者”でもあった。
その綺羅の姿に華穂はどうすることもできない、涙目で見上げることしかできない。
そんな華穂に斑紋で描かれた綺羅が告げる。
「もうダメですわ。最後にあなたへ伝えておきたいことがありますの」
華穂は両手で溢れる涙を拭いながら、たどたどしく声を掛ける。
「大丈夫だから、まだダメじゃないから」
その華穂へ綺羅が返した言葉は――。
「そういうとこがむかつくんですわ」




