第7話 現れた最終態と明かした本心 その4
「まさか……ですわっ」
綺羅が信じられないと目を見開く。
理久が心中で湧き上がる絶望感を認めまいとあえて怒鳴る。
「硬ってええええええええっ。なんなんだ、あいつはっ」
ナンバー四七の背後から、宵闇と慄冽が姿を表す。
「ナンバー四七の塵硬密度は全ト・ドゥーフ剣中で最大ということを理解いただけたざますか?」
宵闇が続ける。
「すなわち、最も、硬い、外皮、を、持って、いる――」
そして、ナンバー四七を促す。
「――やれ」
“てやんでーっ”
その咆吼とともに、改めて四六体のト・ドゥーフ剣が召喚され、あっという間に状況は爆裂型呪能砲を放つ前の状態にリセットされた。
しかし――。
最初に異変に気付いたのは瑠奈。
「なにかおかしくないですか」
「確かに変ですわね」と綺羅。
「な、なにが?」と見下ろす理久に、華穂が「し」とささやいて自身の耳元に手を当てる。
倣って澄ませた理久の耳にト・ドゥーフ剣たちの声が最初はぼそぼそと、やがて大音量となって押し寄せる。
“てやんでーでやんでーてやんでー”
“だべ? だべだべだべ”
“われわれわれわれーわれー”
“だぎゃーだぎゃー”
“どすどすどす、どす”
互いに吠え合う臓物塊たちの様子に華穂がつぶやく。
「なんか揉めてるみたい、だね」
理久の耳にもト・ドゥーフ剣同士が怒鳴りあい罵りあっているように聞こえる。
華穂が小雪を見る。
「小雪ちゃん、訳せる?」
「もちろんだにゃん。ふむふむ、ほうほう、ははあ」
「なんて言ってるんだ}
思わず催促する理久に、小雪が苦笑いで返す。
「ナンバー四七が自分のことを“ト・ドゥーフ剣の頂点にして束ねる者なり”って宣言したから他のが反発してるだけだにゃん」
「く、くだらねえ」
脱力する理久だが、打開策がない状況であることは変わっていない。
ならば、どうする?
その時――
「あ、あの……」
――颯が手を挙げた。
「どうしたの?」
声を掛ける華穂を含めた全員から集中する視線を避けるように、颯は目を伏せる。
そして、ぼそぼそと――。
「今のうちに一旦、ICRへ引き返すのはどうかなって」
賛同したのは理久。
「そうか、出直せば綺羅ちゃんの爆裂型や瑠奈ちゃんの連射型がまた使えるし」
しかし、小雪がいつになく難しい顔で首を振る。
「出直しても無駄にゃん。四六体までなら吹っ飛ばすことはできてもナンバー四七を倒せない以上は同じ状況の繰り返しにゃん」
理久が食い下がる。
「瑠奈ちゃんの連射型でも無理なのか? まだ試してないけど」
小雪がツインテールをくねくねと弄ぶ。
「連射型とはいえ無限に撃てるわけじゃなくて、三二連射にゃん。綺羅ちゃんの爆裂型が通用しないナンバー四七に通じるとは思えないにゃん」
綺羅がつぶやく。
「と、なると……しかたありませんわね」
そして、凜とした声で呼びかける。
「颯っ」
それまで気配を消していたかのような颯がびくうと震える。
そして、綺羅に向き直ると涙目で首を振る。
「……ダメ、無理。私じゃ……絶対」
その背中に小雪が声を掛ける。
「もう颯ちゃんしかいないにゃん」
颯は小雪を振り向くことすらせず、顔を伏せて泣き出す。
「もう失敗したくないから……迷惑かけたくないから……。だから許して。これ以上、私に――」
「落ち着くのですわっ」
不意に“薬指”の綺羅が“中指”の颯を抱きしめた。
「確かにナンバー四四を相手にした時、少しだけタイミングがずれて前衛にいた私と瑠奈を巻き添えにしましたわね。でも、それは他愛のないミスに過ぎませんわ。本来の颯なら有り得ないような」
瑠奈も声を上げる。
「そうですっ。あの時はいつもの颯ちゃんじゃなかったですっ」
綺羅が続ける。
「あの日の昼間、あなたは大会で予選落ちしたことをご両親に責められたのでしょう?」
小雪が華穂にささやく。
「颯ちゃんの家で聞いた話にゃん」
「うん」
綺羅がうつむいたままの颯を覗き込む。
「あれで私たちはみんな納得しましたのよ。あの時の颯はメンタルに傷を負った颯であり、本来の颯じゃなかったと」
“親指”の華穂と“小指”の瑠奈も左手の両端から声を掛ける。
「そうだよ。いつもの颯ちゃんなら絶対成功するよ」
「あたしも信じますっ」
「でも……でも……」
それでもまだ迷っているような颯を綺羅が改めて抱きしめる。
「だからなにも不安がる必要はないのですわ。仮に失敗しても今以上に悪い方に転がることはないでしょうから。さあとっとと終わらせて、元の姿へ戻りましょう?」
「颯ちゃん、大丈夫だよ」
「大丈夫にゃん」
「大丈夫ですっ」
颯が震える声を絞り出す。
「ありがとう……みんな。ありがとう」
そして、綺羅に頷き、理久を見上げる。
「理久……さん」
「ん」
「お願いします」
その目には理久がずっと見てきた怯えたような光は微塵もなかった。
「ああ。行くぞ」
理久は颯の呪EL銃を知らない。
しかし、不安はなかった。
綺羅が“颯しかいない”と言うのだから。
華穂が、小雪が、瑠奈が颯を信頼し、期待しているのだから。
他に選択肢はないのだから。
ナンバー四七を守る臓物塊の群れへと伸ばした理久の左手が呪能砲を放つ。
そして――。
「ななななんだ、こりゃあああああああっ」
思わず声を上げる理久の目の前で発射した呪能砲が膨張し、巨大な光塊と化す。
その手元で小雪と華穂が「やったにゃん」「やっぱ颯ちゃんだねえ」とハイタッチを交わす。
瑠奈が「颯ちゃん、さすがですっ」と声を上げる。
そして、綺羅が理久を見る。
「これが私たちの切り札、颯の極超型呪EL銃……極超型呪能砲ですわ」
撃ち出された極超型呪能砲は、その規格外の大きさと輝度に息をのむ理久の前で――
“てやんでえええええええええええええっ”
――絶叫するナンバー四七と周囲を守っていた四六体のト・ドゥーフ剣をすべて巻き込み、一片の臓物も残さず消し去った。




