第6話 突撃! お宅訪問隊 その10
乗り込んだタクシーが合同庁舎へと走り出して少し経った頃、窓外を見ていた颯がつぶやいた。
「もうすぐ学校だね……」
その言葉通り、進行方向に目を凝らすと五人と碧海、そして、ソラの通っていた車原中央中学校が見えてきた。
タクシーはその校門前に描かれた横断歩道で赤信号に捕まり停止する。
左手がぐいと車窓に引っ張られるのを感じた理久は“左手の全員が学校を見ようとしている”ことに気付いて、運転席から見えないように注意しながら窓に五人を押しつける。
平日の午後ということを考えればグランドでクラブ活動が行われ、校舎からも生徒の声が漏れてきそうなものだが、そういった活気は一切なく静まりかえっている。
ただ職員用駐車場はすべて埋まっていることから、少なくとも多くの教職員が校内にいることはわかる。
じゃあ生徒は?
そんな疑問を抱いた理久だがすぐに理解する。
五人の女生徒が同時に行方不明になった中学校が普通に授業をやってクラブ活動まで行っているわけはないのだ。
休校かあるいは短縮日程となり、クラブ活動も当面の間は休みとなるのが当然なのだ。
校門前の歩道には、明らかに教職員や地元住人とは違う空気をまとわせた男女が数人たむろしている。
髪色も含めて、公立中学校に不釣り合いな派手な容姿の若者たちは動画配信者なのだろう。
スーツ姿の男女は“突如、寝室からいなくなった女生徒たち”の家族から相談を受けて関係箇所の捜査に訪れた警察や、情報を聞きつけて集まってきた報道の関係者たちなのだろう。
そんなスーツ姿のひとりに理久の目が留まる。
閉じた校門の門柱に設置されたインターホンに耳を寄せている小柄な若い男に見覚えがあった。
それが誰かをすぐに思い出す。
一年前に碧海がいなくなった時に取材に来ていた記者のひとりだった。
あまり人の顔を憶えるのが得意でない理久が憶えているのには理由があった。
理久は当時のことを今でもはっきりと憶えている。
その日、学校から帰った理久は庭に人の気配を感じた。
そっと窺ってみると、この男がいた。
男は理久と目が合うと苦笑を浮かべながら名刺を差し出す。
「いや、誰もいないようだったもんでね。話を聞かせてくれるかな」
その時の理久は心労もあって、少し機嫌が悪かった。
「誰もいないとわかってて入り込むのは泥棒ですね」
男の顔色が変わった。
理久の手から渡したばかりの名刺をひったくると一転して低い声でささやく。
「なめたくちきいてんじゃねえぞ、こら」
そして、一方的にまくしたてる。
「オマエはいなくなったメスガキの兄貴か? オマエが妹を虐待してたことにして“それが理由の家出かもしれない”って書くこともできるんだぜ? オレたちがその気になったらオマエみたいなガキ一匹の人生ごときどーにでもできるんだ。メディアなめんなよ、クソガキが」
男は理久を突き飛ばすと玄関に唾を吐いて出ていった。
ひとり残された理久はそんな男になにもできなかった自分がイヤになった。
とはいえ、どういう行動をとればよかったのかは今でもわからない。
合同庁舎に着いた理久はチケットによる支払いを済ませるとまっすぐに地下フロアの個室へと帰った。
誰もいない部屋に「ただいま」とつぶやいて仰向けでベッドへ倒れ込む。
そして、そのままの姿勢で右手を伸ばして枕元に設置されているインターホンの受話器を取る。
数回の呼び出し音を経て――
「理久くん?」
――冰雨の声が呼びかける。
「理久です。今、帰りました」
「お疲れ様。夜霧とそっちへ行くので待っててください」
それだけ伝えてぷつりと切れた。
ほっと息をつく理久に華穂が声を掛ける。
「疲れた?」
仰向けのまま左手を顔の前にかざす。
「ああ、疲れた。一日中、外をうろうろすることなんて普段からなかったし」
そう言って思わず笑う。
華穂がささやく。
「ありがとう」
“なにが?”と身体を起こすのと同時に、小雪、綺羅、瑠奈、そして、颯が声を合わせる。
「今日は私たちのためにありがとうございました、ですわ」
「あ、うん」
正面から礼を言われた理久が思わず赤面したところへ夜霧と冰雨がやってきた。
慌てて起き上がった理久に冰雨が頭を下げる。
「ご苦労さまでした。そして、……ありがとうございました」
「いえ」
理久は、この“ありがとうございました”の中には五人を無事に連れ回したことに対する礼だけでなく、小雪と話した件も含んでいるのだろうな――と思う。
その小雪が夜霧に問い掛ける。
「解析は終わったにゃん?」
夜霧はびしいとサムズアップで答える。
「終わったっす。完璧っす」
左手の五人が歓声を上げる。
その五人に夜霧が“任せろ”とばかりに胸を張る。
「小雪の記憶から宵闇がやった“元に戻る方法”を整理して“みんなを元に戻すマニュアル”を作ったっす。それを今から小雪にインストするっす」




