第6話 突撃! お宅訪問隊 その9
理久は考えるまでもないと即答する。
「もちろん、合同庁舎だよ」
その答えに小雪が目を見開く。
「にゃん?」
理久にはその真意がわからない。
“フェアレーヌ5”の家庭訪問という使命を終えた今、合同庁舎へ帰る以外になにがある? 理久が家に帰る理由などなにがある?
「そんなに意外かな?」
思わずひとりごちた理久は改めて小雪を見る。
そして、素直な感情を伝える。
「今日一日みんなの家を回って、みんながそれぞれいろいろある中で侵略者とも戦ってたことがわかった。申し訳ないんだけど本当はもっと暢気というか、理想的な家庭とか普通の家庭のお嬢さんばかりだと勝手に思ってた。ごめん」
小雪だけでなく、華穂も颯も綺羅も瑠奈も、全員が理久の話に耳を傾けている。
「だから、僕もみんなの力になりたい。早く元の姿に戻してやりたい。そうしないと妹に顔向けできない。再会した時に“相変わらずダメな兄いだな”とか言われそうだし。そのためにも、もっとがんばらないとって思った。僕にはICRの一員として、やらなきゃならないことがあるんだって。そう思った――」
そこまで言って真面目に語っている自分に面映ゆさを感じ、慌てて付け足す。
「――そんな理由でござる」
「なるほどですにゃん」
感心したような口ぶりで小雪が告白する。
「実はですね、冰雨に頼まれてたんだにゃん」
予想外の言葉に理久は眉根を寄せる。
「冰雨さんに……なにを?」
「理久はクリスタルメーカーの触手と神経系に碧海ちゃんがいないことがわかったことでやる気をなくしてるんじゃないか? これ以上拘わりたくない、家に帰りたいとか思ってるんじゃないか? あるいは冰雨や小雪たちに対して密かに抑えていた憎悪の炎を隠さなくなるんじゃないか? 小雪たちに危害を加えたり、人質にして冰雨や夜霧に強行的な“碧海ちゃん探し”を要求するんじゃないか? 等々《などなど》。とにかく小雪たちICRにとって“よくない存在”になるんじゃないかと疑っ――いや、心配してたんだにゃん」
それが初耳だったらしい華穂が口をとがらせて小雪を見る。
「理久さんはそんなことしないよ」
しかし、理久は――
「……」
――なにも言わずに小雪の続く言葉を待つ。
小雪もまた、華穂には構わず続ける。
「だから、そのへんの意思確認ってゆーか見張りを頼まれてたんだにゃん。合同庁舎にある公用車を使わずに民間のタクシーを手配したのも、公用車だと職員が運転手につくことで理久が本心を隠す可能性があることを考えたんだにゃん」
理久はいまさらながら今回の引率が“合同庁舎や職員の目から離れることで露わになる理久の本心を探る目的もあった”ということに気付いて、ひとつ大きなため息をつく。
それが信用されてなかったことに対するガッカリ感に起因するものであることは言うまでもない。
とはいえ、それをあえて口にするのも悔しいような気がして、なによりも現状の理久に対するICRの対応にまちがいはないような気がして、とりあえず苦笑いでつぶやいて感情をごまかす。
「いつのまにそんな頼まれごとを」
これはこれで本心である。
言うまでもなく理久と小雪は文字通りの一心同体なのであり“理久の知らないところ”で小雪が冰雨から指示を受けることなどどうすればできるというのか。
しかし、小雪は“なんてことはない”と答える。
「あたしはナビだからサーバー経由でこっそり管制室の冰雨とかと意思疎通できてたりするのにゃん。だから、さっきの理久の言葉もサーバー経由で報告しておくにゃん」
理久がぽつりと返す。
「ありがとう、教えてくれて」
「にゃん?」
一転して戸惑う小雪に理久が続ける。
「そういうことって最後まで秘密にしておくもんじゃないのか? それを教えてくれたってことは……ICRの総意は知らないけど、少なくとも小雪ちゃんはこれまでどおり僕を信用してくれるってことだよな――」
そして、付け足す。
「――ありがとう」
小雪が黙り込む。
心なしか赤い頬で。
そこへ理久が問い掛ける。
「……ひとつ訊いていい?」
「な、なにをだにゃん?」
「もし、僕が心配されてた通り“ICRにとってよくない存在”になったら、冰雨さんはどうするつもりだったんだろうね」
小雪は意味ありげな笑みを浮かべる。
「教えないにゃん」




