第6話 突撃! お宅訪問隊 その8
瑠奈の家を離れてタクシーへと向かう理久の足取りは重かった。
瑠奈を含めた指先の五人も、誰一人として言葉を発する者はない。
理久は違和感を覚えている。
それがなんなのかわからないが喉に刺さった魚の小骨のような違和感を。
そんな重い空気を察したのか瑠奈がぽつりと語り出す。
「えと、家にいたのがあたしの兄様で、出てきたのが姉様で……。泣いてたのが弟と妹、です」
そして、理久は続く言葉に顔をしかめる。
「父様と母様は……わからないです。どこにいるのか」
華穂はやるせない表情で、小雪は思案顔で、颯は相変わらずおどおどと、綺羅はあからさまに不快感を漂わせながら聞いている。
「あたしがいなくなったから。だから兄様も姉様もいらいらしてて、弟も妹も泣いてて。あたしが早く帰ってあげないと、あたしがちゃんとしてないと」
ぶつぶつとひとりごちる瑠奈を見ながら、理久はようやく小骨の正体に気付いた。
“帰りたい”と言い出したのは瑠奈だった。
ところが、訪ねてみれば最悪最低の環境だった。
なぜあんな家を瑠奈は気にしていたのか。
それが違和感――小骨の正体だった。
そして、今の言葉から瑠奈が家に帰りたがっていた理由を理解する。
自分がいなくなった家のさらなる惨状を憂えていたのだ。
小雪がつぶやく。
「とにかくこれで綺羅ちゃんと瑠奈ちゃんの波長が合ってた理由がわかったにゃん」
華穂が首を傾げる。
「どゆこと」
答えたのは颯。
「お家での立場が似たもの同士、みたいな……」
それまで黙って怒りのオーラをまとっていた綺羅がついに口を開く。
「とりあえず、元の身体に戻れた暁には、瑠奈は私の所に引っ越すことにするのですわ」
しかし、瑠奈は即答で断る。
「困ります」
綺羅が問い返す――いつになく厳しい口調で。
「なにがですの?」
「だって、あの家はあたしがいないと、あたしがいないと」
泣き声に変わりつつある瑠奈を綺羅が抱き寄せてささやく。
「困るのは“あいつら”であって、瑠奈が困る必要はありませんわ」
「でも、でも……家族だし」
言いながら綺羅の腕に顔を埋める。
“助けてほしい”という本心をさらすように。
そんな瑠奈に綺羅が冷徹な声色で言い放つ。
「よろしくて? “自分の幸せのために犠牲を強いるような連中”は“家族”ではないですわ」
そこへ小雪が声を掛ける。
「引っ越すかはあとで考えるとして、取り急ぎ文科省の冰雨から厚労省に連絡してもらうにゃん。少なくともリアルタイムで幼い弟ちゃんと妹ちゃんが放置されてるんだし」
「でも、あたしはそんなつもりで帰ったわけじゃ……」
煮え切らない瑠奈に小雪が笑顔で返す。
「別に瑠奈ちゃんが気にする必要ないにゃん。“つーほー”するのは、たまたまそんな状況を知った冰雨だにゃん。だから、もしも、もしも、もしも、“つーほー”して“トラブル”になったら、悪いのは通報した冰雨であり、冰雨に告げ口した小雪たちだにゃん。瑠奈ちゃんは気にしなくていいにゃん」
理路整然とした小雪の提案に、理久は思わず感嘆の声を上げる。
「おー、さすがだ」
その理久を見上げて華穂が微笑む。
「小雪ちゃんは名ナビだからねえ」
タクシーが見えてきた。
小雪が理久を見上げる。
「さて、理久はどうするにゃん?」
不意に問われて、理久はなんのことかわからない。
「なにが?」
他の四人も同様に首を傾げて小雪を見ている。
小雪が改めて問う。
「合同庁舎へ帰るか理久の家も見に行くか、の二択だにゃん」




