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第6話 突撃! お宅訪問隊 その7

 次に向かったのは植芝町の外れにある住宅街だった。

「誰が先導してくれる?」

 タクシーを降りると同時に問い掛けた理久へ――

「あたしですっ」

 ――答えたのは瑠奈。

 理久は瑠奈に引っ張られながらポケットから取り出したメモに目を這わせる。

 改めて確認するまでもなく三つの目的地の最終地である。

 ということは――。

「じゃあ、ええと……瑠奈ちゃんと綺羅ちゃんはご近所さんということか」

 小雪を除外すればまだ家に行ってないのは瑠奈と綺羅であること、そして、綺羅の瑠奈への密着振りから他の三人以上に仲がよく見えること、この二点から考えても綺羅と瑠奈は小学生時代からのつきあいで“ご近所さん”なのだろう――理久はそんなことを思う。

 しかし、綺羅はあっさり否定する。

「私のうち植芝町ここではなく間名町ですわ」

「は?」

 理久は手にしたメモを読み返し、さらに裏面にも目を這わせる。

 しかし、どこにも間名町の記載はない。

「どうして書いてないんだ?」

 ひとりごちて首を傾げる理久に綺羅が答える。

「だって、行く必要がないのですから」

 あっさり答えられるが理久としては釈然としない。

「行かなくていいのか? どうして?」

「私に家族なるものは存在しないからですわ」

 そう言うと――イヤなことを思い出したように――一転して不快感を滲ませた口調に変わる。

「妹なる者を愛玩動物ペットがごとく扱う一方で姉である私を“八つ当たり対象(サンドバッグ)”としか認識してないのみならず、将来的に“カネヅル”や“無償の介護士”にすることを早々に宣言してるやつらならいますけどね」

 綺羅の家庭環境を察するには十分なその言葉に、理久だけでなく瑠奈と颯、華穂と小雪も戸惑い、言葉を失っている。

 四人の仲間たちにとっても初耳だったのだろう。

 しかし、当の綺羅は、そんな周囲の心中に湧き出すであろう同情的な空気を拒否するようにさらに続ける。

「心配は無用ですわ。ちゃんと祖父母の支援のもと不自由ない一人暮らしを満喫してるのですから。そして、ちゃんと家族に匹敵するような“大切な存在”もいるのですから」

 言い終えると同時に、理久の身体を先導するのも忘れて立ち尽くしている瑠奈に抱きついた。

「瑠奈とは“波長が合う”ってやつなのですわ。どういうわけだかわかりませんけれど。“宿命”とか“前世からの因縁”ってやつかもしれませんわね」

 そして、瑠奈を促す。

「さ、まいりましょう。瑠奈のお宅拝見ですわ」


 改めて歩き始めてから、ほんの五分もかからないところで瑠奈が声を上げた。

「ここですっ」

 そこは住宅街の奥にある一軒家だった。

 あろうことか“三階建て”である。

 見上げた理久が思わず感嘆の声を漏らす。

「で、でけえ」

 華穂もため息をつく。

「大きなお家だねえ」

 直後に理久の背後から声が投げかけられる。

 それも思いっきり不機嫌な声が。

「どけや、ジャマ」

 振り向くと三人の若者がコンビニ袋を下げて立っていた。

 口の利き方こそ高圧的な巨漢ではあるものの威圧感も殺気も凶悪な雰囲気もない。

 むしろ三人のうち、誰ひとりとして理久とは目を合わさず、声を掛けた当人に至ってはこころなしか目を泳がせて赤面している。

 それぞれが提げているコンビニ袋に透けて見えるのはジャンクフードとコーラが数本。

 “不良感”は微塵もなく、むしろ“お子様感”に溢れている。

 とりあえず道を塞いでいることは確かなので理久が一歩下がる。

「すいません」

 同時に声を掛けたひとりを残りのふたりが笑う。

「おめー、見た目のおとなしそうな年下にはつええのな」

「こないだは駅で中学生にカツアゲされてたくせにな」

 理久に声を掛けた若者は顔をさらに赤くして返す。

「う、うるせー、こ、殺すぞ。オマエら」

「ぷ、殺すぞってか」

「コンビニの駐車場でたむろしてる連中と目を合わさないように早足で通り抜けてたオマエが言うかね。ぎゃはは」

 そこへ玄関の扉が勢いよく開く。

 出てきたのは金髪の女。

 三人組は黙り込んで目を伏せる。

 理久はその女を髪色と化粧から一瞬二十代と見たが、よく見れば自分と同じくらいの年齢らしい。

 なんなんだこの家は? この四人と瑠奈はどういう関係なんだ?――そんなことを考える理久の思考を遮るように、家の奥から幼いこどもの泣き声と若い男の声が投げられる。

「どこ行くんだよ。チビどもの世話どーすんだよ」

 金髪女が怒鳴り返す。

「知るか、おめーがやれ。ゲームばっかやってねーでよ」

「なんだと、待てようっ」

 飛び出してくる若い男にコンビニ軍団が手を振る。

「いよー、来たぜ」

「新作落としたんだって?」

「今日は朝までやらせろよ」

 若い男は一転して笑顔で迎え入れる。

「おう、上がれ上がれ。……ん?」

 その目が理久に留まった。

「なんだ、オマエ」

「あ、えーと」

 口ごもる理久の耳元に瑠奈が左手を引っ張り上げる。

 そして、ささやく。

「もういいです。ありがとうございました」

 理久は釈然としないまま瑠奈にぐいと引っ張られてその家をあとにした。

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