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第5話 奥の手 その8

 そのまばゆさに耐えきれず、理久はきつく目を閉じる。

 そして、数十秒の後、その閃光が鎮まったのを感じて、そっと目を開く。

「……え?」

 慌てて周囲を見渡す。

 どこにも索漠の姿はない。

 八本の触手が屹立していた場所には十本分の根元だけが焼けただれた切断面を見せてぴくぴくと痙攣している。

 風景はそのままで触手と索漠、そして、慄冽と宵闇の姿だけが消えている。

 そんな周囲の様子に戸惑う理久の手元で華穂が声を上げる。

「ひゃあ。やっぱすごいよ。綺羅ちゃんは」

 理久は改めてなにもなくなった荒野を見渡しながらつぶやく。

「これが綺羅ちゃんの……」

「うん。爆裂型呪EL銃。ていうか爆裂型呪能砲?」

 華穂の言葉に、さっきまで“どこを狙うか”でぐだぐだ悩んでいた自分がバカに思えて脱力する。

「最初から言ってくれよう」

 そんな理久の左手で颯が綺羅の肩を叩く。

「綺羅ちゃん。あそこ」

 理久が目を向けたそこにはひとりの結晶少女が横たわっていた。

 綺羅が叫ぶ。

「瑠奈っ」

 そして、理久を引きずるように引っ張っていく。

「いや、ちょ、待って」

 なんとかバランスをとりながら走り出そうとした理久だが、なにかに後ろから足を取られて転倒する。

「なん……」

 振り向くとそれは“索漠が収まっていた球体”から生えていた腕だった。

 よく見ればその周囲に砕けた球体の破片が散乱しているが、どこにも索漠の姿はない。

 どうやら蒸発したらしい。

 少しだけ感傷的になりかけた理久だが、綺羅がそれを許さなかった。

「急いでもらってよろしいかしら?」

「ごめん」

 気を取り直した理久が立ち上がり、横たわる結晶少女・瑠奈のもとへと走る。

 小雪を奪還した時と同様に、結晶状態の瑠奈は眠っているかのように微動だにしない。

「大丈夫なのか?」

 思わず理久がつぶやく。

 瞬時にすべての触手を消滅させた爆裂型の威力を生々しく感じている理久にとっては“あれだけの破壊力に晒されて無事でいられるものなのか?”というのは当然の疑問だった。

 そんな疑問を察した綺羅が答える。

「問題ありませんわ。私の爆裂型はイヤユメ世界由来のイヤユメ元素と反応して対消滅させるメカニズムですの。さらに私たちフェアリーヌの周囲には自動的に相殺フィールドという一種のバリアが展開されることでノーダメージでイヤユメだけを消し去ることが可能なのですわ」

 その言葉に理久は安堵の息をつく。

 そして、周囲を見渡す。

 もし瑠奈以外に触手の中へ捕らわれていた者がいたとしたら、当然、瑠奈同様に荒野に横たわっているはずである。

 理久は祈るような気持ちで目を凝らす。

 しかし、どこにも人影はない、気配すらも。

 理久の手元から華穂が声を掛ける。

「理久さん……」

 理久は周囲に目を向けたまま答える。

「いや、他にもいないか? どこか、そのへんに誰か倒れていないか?」

「あたしもさっきから見てるけど……誰も……」

 理久の言う“誰か”が誰のことかを悟ったらしい華穂が残念感を漂わせながら答える。

 そこへ綺羅が――。

「……もう、よろしくて?」

「あ? ああ」

 我に帰ったように理久は瑠奈へ左手を伸ばす。

 その手が瑠奈に触れると同時に小雪の自動帰還設定が作動した。


 静けさを取り戻した境界域で、荒野の一画が盛り上がって堆積した砂埃をまき散らす。

 そこから現れたのは防壁代わりの蝙蝠傘をさした宵闇と慄冽だった。

 宵闇が根元だけになってしまった触手を見渡す。

「単体、の時に、撃つ、呪EL銃、よりも、爆裂範囲と、威力が、拡大してる」

 そのとなりで慄冽は足元に転がるものをハサミ脚で突っついている。

 それは爆裂型呪能砲の爆風で飛ばされてきた、索漠が背負っていた“クローン脳髄を収めたパッケージ”の部品だった。

「ううむ、本体の方は完全に蒸発したみたいざます。まさか、こんなとこで索漠の身体を失うことになるとは思わなかったざます、ぶくぶく」


 理久は合同庁舎の個室にあるベッドで大の字になっている自分に気付いた。

 仰向けのまま天井を眺めて、小雪の自動帰還が無事に実行されたことを理解し、安堵の息をつく。

 そして、さっきまでいた境界域の景色を思い出す。

 綺羅と自分の爆裂型呪能砲によって吹き飛び、焼けただれたような根元をさらして痙攣する触手の根元。

 そして、荒れ地に横たわるひとりの結晶少女――瑠奈。

 他には誰もいなかった。

 自分たちと瑠奈以外には誰の姿も存在しなかった。

 理久は頭の中で出したそんな結論を天井を見たままつぶやく。

「吹っ飛ばした触手の中にいたのは瑠奈だけで……碧海はいなかった」

 ふとかすかな声が理久を呼んだ。

「理久さん」

 理久のつぶやきを聞いた華穂だった。

「大丈夫だよ、きっと。触手の中にはいなかっただけで、ソラさんみたいにクリスタルメーカー本体の方にいるかもしれないし……」

 理久は上体を起こしながら華穂へ答える。

「うん。そうだな。ありがとう」

 そして、左手を見下ろす。

 そこでは薬指の綺羅に見守られて、小指の瑠奈が静かな寝息をたてていた。

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