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第5話 奥の手 その7

 思わぬ告白に問い返したのは華穂。

「なんのことっ?」

「どっちを狙うんだ?」

 向かってくるのは索漠。

 “瑠奈”という名の少女を捕らえているのは触手の一本。

 今、この両者は理久を挟むように正反対の位置にいる。

 撃てるのは一発だけ。

 索漠を撃てば触手に捕らわれた瑠奈を助けられない。

 触手を撃てば瑠奈は解放されるが、その瑠奈と一緒に境界域から脱出するには瑠奈の身体を理久が確保している必要がある。

 そのためには理久が瑠奈のもとへ全力疾走することになるのだが、理久の運動能力で追ってくる索漠をかわしきれるか、逃げ切れるか、追い付かれる前に瑠奈のもとへたどりつけるか。

 明らかに自転車よりも速い速度で向かってくる索漠に対し、走るのはおろか歩くのも嫌いな理久の運動能力は自他共に認める平均以下。

 単純に言えば足は遅い。

 それも、かなり。

 触手を狙撃して瑠奈なる結晶少女を解放しても、そこへ到達するまでに索漠の攻撃をかわせるわけがない、逃げ切れるわけがない、たどりつけるわけがない。

 さらに触手のそばには慄冽と宵闇がいる。

 理久が無事に到達するより先に、慄冽と宵闇が瑠奈を強奪する可能性も考えねばならない。

 追い詰められた理久の脳がフル回転して最適解を探す。

 今、向かってきている索漠をかわせば、理久から見た索漠と触手の位置が重なる――これなら一発で索漠と触手とさらに慄冽や宵闇まで仕留められる、かもしれない。

 いや、ダメだ――すぐに却下する。

 この案が有効なのはあくまでも“一発だけで索漠と触手を狙撃できる場合”だけである。

 それは“撃ち出した呪能砲が索漠を貫通して触手まで到達する場合”に限られる。

 呪能砲が索漠を倒しても“貫通”できなければ、一発では足りない今の位置関係となんの違いもないのだ。

 果たして貫通できるのか?

 保証はない、やってみなければわからない。

 そんな不確かなものに賭けるしかないのか?

 さらに!

 今の理久には瑠奈の捕らわれている触手が残り八本のどれかわからない、つまり、どの触手を狙えばいいのかすらわかっていない。

 八分の一の博打に掛ける?

 そんなバカな。

 理久は混乱している。

 だらだらと汗を流し、あたふたと触手と索漠を見比べる。

 そこへ綺羅が淡々と声を掛ける。

「早く撃ってもらえませんかしら?」

 理久は正直に問い掛ける。

「でも、どこを狙えばいいのかわからないっ。索漠か触手か。触手ならどの触手だ。それ以外に慄冽も宵闇もいる。どうしたら……」

 “ああ、もうじれったい”とばかりに綺羅が遮る。

「どっち向きでもよろしくってよ。なんなら頭上に向けて撃ってはいかが?」

 その言葉の意味はわからない。

 しかし、理久にはもう考えるだけの余裕はない。

 索漠は数メートル先まで迫っている。

 理久は綺羅にすべてを委ねる気持ちで、言われたまま頭上へと手のひらを突き上げて叫ぶ。

「発射っ」

 理久の声に合わせて呪能砲が発射される。

 直後に周囲が閃光に埋まり、一面が光の海と化した。

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