第5話 奥の手 その6
思わぬ言葉に全員の視線が小雪に集まる。
そこへターンしてきた索漠のタックルが迫る。
が、今度は――
「理久さんっ。あぶないっ」
――気付いた華穂が理久を引っ張ってかわす。
その左手では当然のように綺羅が小雪に食いついている。
「どうするんですの? どうするんですの? どうするんですの?」
小雪はこともなげに答える。
「あたしの基礎呪EL使うにゃん」
もちろん理久にはなんのことだかわからない。
「基礎呪EL?……て、なんだ?」
ささやく理久に華穂が補足する。
「小雪ちゃんは、その、あたしたちとはちょっと違ってて……」
言いづらそうな華穂に小雪が微笑む。
「気を遣わなくていいにゃん」
そして、理久を見る。
「小雪はみんなみたいにニンゲンじゃないにゃん」
その言葉に理久は前に見た索漠と華穂のやりとりを思い出す。
小雪はイヤユメサイドの存在。
それをICRが身体と人格を与えてナビにした。
その本来の姿は一匹の魚……。
「小雪は呪EL銃の銃弾と同じ呪ELを動力源として動いてるにゃん。もちろん今もそうにゃん。でも、それは呪EL銃として使えるレベルじゃないにゃん。つまり、人間に例えるなら基礎代謝みたいなものにゃん。わかるにゃん?」
理久は理解したままを整理しながらたどたどしく答える。
「えーと……小雪ちゃんは今も呪ELで動いてるけど、その量は呪EL銃として使えるほどじゃない、ってこと?」
小雪はにんまりと笑う。
「正解にゃん。その呪ELを綺羅ちゃんか颯ちゃんに譲るにゃん。そうすれば残留分と合わせて一発くらいは撃てるにゃん」
颯が割り込む。
「でも、それじゃ……小雪ちゃんが動けなくなったら私たちはどうやって帰るの?」
さらに華穂。
「そうだよ。小雪ちゃんが動けないと瑠奈ちゃんを取り返しても帰れないよ」
小雪が笑う。
「大丈夫にゃん。その分の呪ELだけ残すにゃん。瑠奈ちゃんを取り戻したら自動で帰れるようにセットしておくにゃん。これで万事解決にゃん?」
そう言って綺羅を見る。
綺羅の表情が初めて迷った。
小雪が提示した具体案が“まさかの自己犠牲”だったことで、さすがに綺羅もそれまでのように強弁できないようだった。
しかし、それは綺羅だけでなく華穂と颯も同じだった。
確かに小雪の案は“全員が納得の上で帰れる”策ではあるものの、それが“小雪を踏み台にすることで成立する”とあっては賛成することに抵抗を感じるのも無理はない。
全員が黙り込んだ中、さっき通り過ぎた索漠が遠くでターンするのを見た理久が結論を促す。
「どうする? 次のが来るぞ」
その言葉がスイッチを押したかのように綺羅が顔を上げる。
「どうするもなにもありませんわ。ここはやはり私の出番なわけですから」
答える綺羅に“これ以上、ムダな時間を費やすわけにはいかない”と、小雪が返す。
「じゃあ、早速、綺羅ちゃんに小雪の呪ELを送るにゃん。理久との連携撃ちについては華穂ちゃんから説明するにゃん。その間に索漠が向かってきたら颯ちゃんが理久の身体を引っ張って避けるにゃん。……がくり」
小雪は電池が切れたように頭を垂れ――それっきり話さなくなった。
その小雪を華穂が抱きしめる。
「ありがとう、小雪ちゃん」
そして、綺羅へ連携撃ちの説明を始めようとするが、迫り来る索漠の存在に気付いて颯へと叫ぶ。
「颯ちゃん、お願い。避けてっ」
颯が慌てる。
「わ、わ、私、そんなのできな……きゃ」
身をひるがえす颯の動きに合わせて理久の身体が転倒し、その頭上を索漠が通り過ぎていく。
その隙に華穂が綺羅に伝える。
「理久さんが呪能砲撃つから、それに綺羅ちゃんの呪EL銃を乗っけるの。わかる?」
「やってみますわ」
改めて方向転換する索漠を見ながら理久が声を掛ける。
「いいか? 次のが来るぞ」
華穂が答える。
「いつでもいいよっ。理久さん、お願いっ」
「よおしっ」
向かってくる索漠に向き直る。
理久の後方では八本の触手がゆらゆらと笑うように躍っている。
しかし――理久が気付く。
「大事なことを決めてないっ」




