第5話 奥の手 その5
「殺す? ナンバー四七の、覚醒には、まだ、時間が、かかる、はず」
理久たちを遠目に見ながら問い掛ける宵闇に慄冽は――
「四七は使わないざます、ぶくぶく。ねえ、索漠」
――宵闇を軽くいなして、となりに立つ索漠を見上げる。
つられるように索漠へと目線を向けた宵闇の顔面で波形表示が大きく揺れる。
「!」
そこにいる索漠は“宵闇の知っている索漠”ではなかった。
直径五十センチほどの球体に収まっていることも、その球体から手足が生えていることも、その球体がロングコートを羽織っていることも変わらない。
しかし、球体内部に浮かぶ索漠本体である乳児には――頭がなかった。
代わって背中に金属の箱をランドセルのように背負っている。
「ま、さ、か」
つぶやく宵闇に慄冽が答える。
「脳髄を人工脳髄と入れ替えてみたざます、ぶくぶく。あ、心配しなくていいざます。オリジナルの脳髄はちゃんと生かしてあるし、今、この身体に背負わせている箱に収めているクローン脳髄だって、オリジナル索漠の複製人格をインストして活性化してるものざますから。つまり、中身はちゃんと索漠なのざます、ぶくぶく」
「あの索漠、なんかおかしくない?」
遠目ながらに索漠の様子がおかしいことに気付いた華穂が小雪に問い掛ける。
「確かに雰囲気とか違うにゃん」
そのとなりで颯が綺羅の手を引く。
「やっぱり帰ろうよ。ねえ、綺羅ちゃんてば」
しかし、綺羅の答えは変わらない。
「いーえ。帰るのは瑠奈をとり戻してからですわ」
そこへ小雪が叫ぶ。
「来るにゃんっ」
全員の目が向いた先には猛烈な速さで突進してくる索漠の姿。
「帰ろうよ、帰ろうよ」
「あたしも颯ちゃんにさんせー」
「じゃあ帰るにゃん?」
「瑠奈が先ですわ」
そんな少女たちの意見交換を聞きながら、理久はその手を突き出して呪能砲を構える。
一度は勝っている相手とはいえ、それは華穂との拡散呪能砲による勝利であり、理久だけの呪能砲が通じるかどうかはわからない。
それでも四人の議論がまとまるまでの――というより三人が綺羅を説得するまでの時間稼ぎをしなければならない。
向かってくる索漠に手のひらを向けて叫ぶ。
「発射っ」
撃ち出された呪能砲が索漠の本体である“乳児が収まる球体”をカウンターで直撃し、派手な火花を散らせる。
「効いたっ?」
前回のように貫通するまでにはいたっていないものの、その場で静止している索漠の様子に理久が声を上げる。
答えたのは小雪。
「効いてないにゃん。びっくりしただけにゃん」
索漠はその言葉を裏付けるように、両腕を振り回して両足で地団駄を踏む。
運動機能が損なわれていないことを確かめるように。
あるいは、効いてないことを理久へ誇示するように。
そして、改めて理久への突進を再開する。
それまで以上の速度で。
理久は左手を目の前で広げて四人を見下ろす。
「呪能砲が効かないんじゃ帰るしかないよ」
“うんうん”と頷く華穂、小雪、颯に対して綺羅は――。
「あなたが何者かは知りませんが無用な口出しですわ。これは私たちの問題ですの」
そう言って理久の身体をひきずり、いつのまにか寸前まで迫っていた索漠のタックルをかわす。
「っとっとっと」
右腕を振り回して重心を取り戻し、理久は転倒を免れる。
その手元で、華穂が大げさにため息をつく。
「綺羅ちゃんは瑠奈ちゃんのことになると絶対ゆずらないもんねえ」
その綺羅はくねくねと踊り続けている八本の触手を見上げている。
小雪が声を掛ける。
「綺羅ちゃん、残留呪ELはどのくらいにゃん?」
綺羅の目線が小雪に移る。
「呪EL銃一発分は……無理ですわ、ぎりぎり」
小雪がぶつぶつとひとりごちる。
「でも、綺羅ちゃんの残留分は華穂ちゃんより多いにゃん。華穂ちゃんと綺羅ちゃんの違いは、えーと、最至近の攻撃は、華穂ちゃんがナンバー四六に拡散型呪能砲で、綺羅ちゃんはナンバー四四に呪EL銃で……。にゃるほど、わかったにゃん」
となりから華穂が首を傾げる。
「なにが?」
「華穂ちゃんと綺羅ちゃんの残留呪ELの差にゃん。単体で撃つ通常の呪EL銃より呪能砲との連携の方が消費呪ELが多いみたいにゃん。だから威力も大きいんだにゃん。だから小雪と華穂ちゃんより綺羅ちゃんと颯ちゃんの方が残留ELが多いんだにゃん」
「それがどうしたの?」
「この場を切り抜ける方法がひとつだけあるにゃん」




