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第1話 明るすぎる親指姫 その1

 理久はすかさず右手で彼女を覆う。

 そして、そろりそろりとその手をずらせる。

 右手の下では親指の彼女がきょろきょろと周囲を窺っていた。

 やがてその目線は自身の下半身をたどり、理久の手首を経て腕から肩へと上がって――理久と目があった。

 その様子から理久は瞬時に考える。

 おそらく彼女は気付いた。

 自分の身体が理久の親指であることに。

 となると、次に彼女は……パニックに陥り悲鳴を上げるに違いない。

 理久は慌てて右手の人差し指を自身の唇に当てる。

 声を立てないで、と祈りながら。

 その意を察したらしい小さな顔がこくりと頷いた。

 同時に始業のチャイムが鳴り、午後の授業が始まる。

 “起立”の号令とともに理久は親指の彼女を隠すように、改めて右手で覆って席を立つ。

 礼、そして、着席。

「えー、みなさんお待ちかねの学年末テストの返却ですが、現在、鋭意採点中なんでもうちょっと待ってくれい」

 そんな教師の声を聞きながら右手だけでごそごそと教科書とノートを取り出し、あとは左手を机に突っ込む。

 なにが起きているのかさっぱりわからないが、とりあえず自分の中で整理がつくまで彼女の存在を隠さねばならない――そんなことを考えた。

 その時、不意に教室の扉をノックする者がいた。

 教卓を離れた教師が生徒の目線が集中する扉を開く。

 そこに立っていたのは事務員の奥村さんだった。

 奥村さんは何事かを教師に耳打ちすると理久を一瞥し、去って行った。

 その様子にざわつく教室を見渡した教師が理久を指差す。

「七尾」

 室内の目線が一斉に理久へと集まる。

「すぐに応接室へ来いってよ」

 身に覚えのない理久は戸惑った表情で返す。

「応接室、ですか?」

 周囲が無責任に騒ぎ出す。

「なにやったんだ、おいおい」

「逮捕されるのか? 理久が?」

「“まさか、あの人が”ってヤツだな。おとなしそうなヤツに限って裏でなにやってるかわかんねえもんだよ」

 なんで警察が来た前提になってんだよ、どっかのエライ人が僕を表彰しに来たかもしれないじゃないか――と、いきなりの犯罪者扱いが面白くない理久だが、表彰されるのは逮捕されるのと同じくらい身に覚えがないのだから反論のしようもなかった。

 そもそも、呼び出されたのが指導室や職員室ではなく応接室というのが謎である。

 一度も応接室に入らないまま卒業する生徒の方が圧倒的に多いのだから。

 それが余計に周囲の好奇心を煽っているのだろう。

 とりあえず用件も理由もわからないが呼ばれた以上は行かねばなるまい。

「じゃあ、行ってきます」

 と、席を立つ。

 もちろん、右手を左手に被せるようにして。

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