イントロダクション
七尾理久が昼休みの微睡みから覚めた時、左手の親指が女の子になっていた。
正確には親指の生えているべき場所に、大きなフリルやリボンで飾られたミニドレスをまとった少女の上半身が生えていた。
まだ寝ぼけているのかと制服のポケットに入れた眼鏡を取り出し、矯正した視力で改めて見直すが、やはり親指は女の子になっていた。
理久は終わり間近の昼休みの喧噪を背景に、ぐったりと目を覚まさない少女の姿に目を落としてさっきまで見ていた夢の内容を反芻する。
そこは大小のクレーターが穿たれた荒野だった。
見上げる空はどこまでも青く透き通っているが、そのどこにも太陽はない。
そんな奇妙な光景に“ああ、夢を見ているんだな”と理久は考える。
ふと、気配を感じて振り返る。
そこには“太陽のない青空”や“クレーターだらけの荒れ地”以上に奇妙な光景があった。
それはしゅうしゅうと蒸発していくワンボックス車ほどの臓物塊と、その様子を見守る五人の少女たち。
それぞれがまとう色違いのフリルや大きなリボンで飾られたミニドレスは土埃にまみれ、疲労困憊の表情が少女たちと臓物塊の激闘が終わったばかりであることを表している。
そんな光景が理久のすぐ目の前にあるが、少女たちに理久は見えてないらしい。
ま、夢の中なんてそんなもんだ――理久がそんなことを考えた時、ふいに少女たちの表情が険しくなった。
直後にクレーターだらけの大地を揺るがせて“新たな敵”が姿を現す。
それは太さが一メートルほどもある十本の触手。
そのうちの五本が身構える少女たちへと迫る。
触手に触れた少女の身体が結晶細工のように凝固し、次の瞬間には跡形もなく消える。
同時に消えた少女の姿が触手の中にシルエットとして現れる。
瞬く間に四人の少女が結晶化し、触手の内部に捕らえられた。
残されたひとりが迫る触手からバックステップで距離をとる。
そこへ鎌首をもたげた触手が尖端を突き出す。
理久は夢の中ということも忘れて少女に手を伸ばす。
その指先が触れた瞬間に目が覚めて――少女が理久の親指になっていた。
「どうすりゃいいのさ」
昼休みの終わりを告げるチャイムを聞きながらそんなことをつぶやいた時、少女がかすかなうめき声とともに目を開く。




