虚ろな橋の上で
気づいたら、僕は一本の長い橋の上に立っていた。霧が深くて、向こう岸が見えない。
足元はしっかりしているようでいて、歩くたびに微かに揺れた。
この橋は、たぶん僕の“これから”だ。
なのに、何歩か進むごとに、胸の奥がつかえて、ふいに戻りたくなる。
背後には「過去」がある。
見慣れた景色。失敗も後悔も、全部そこに置いてきたはずなのに、振り返ると、どことなく安心してしまう。
前に進めば新しい景色がある。戻れば知っている風が吹いている。
そのどちらを選ぶべきか、僕はずっと、霧の中で迷っていた。
あるとき、橋の中央あたりで立ち止まった。揺れが大きくなり、思わず手すりを掴む。
怖くなって、後ろを振り返って叫んでみた。
「どうしてこんなに、進むのが怖いんだよ!」
返事はなかった。霧が沈黙して、僕の声だけが揺れていた。
けれど、その静けさの中で、ひとつ気づいた。
橋が揺れているんじゃない。――揺れているのは、僕の足なんだ、と。
未来が不安なんじゃない。未来に向かう“自分”が、不安なんだ。
それを認めた瞬間、胸のどこかがほどけた。
霧はまだ晴れないけれど、足元の揺れが、ほんの少しだけ弱くなった。
「そうか。怖いなら、怖いままで歩けばいいんだ」
誰に聞かせるわけでもないその独り言が、橋の上で心地よく響いた。
僕はまた一歩、前へ進んだ。霧の向こうに何があるのかは、まだ分からない。
でも、その一歩が、いつか“岸”にたどり着く。今はそれだけで充分だった。




