眠れない月
眠れない夜って、どうしてこんなにも長いんだろう。
今日だって特別なことはなかったのに、胸の奥だけが静かにざわついている。
窓の外を見ると、月が浮かんでいる。
まるで、ずっと前からそこにあった光をただ静かに思い出しているような、そんな表情で。
眠れないとき、私はよく月を見る。
理由は分からないけど、あの光を見ていると、自分の心が少しだけ本当の姿に戻っていく気がする。
今日、私は頑張った。たぶん、誰にも分からないくらい小さな頑張り。
仕事をして、笑って、ちゃんと大人としてふるまった。
本当は疲れていたのに。
こうして静かになると、見ないふりをしていたことが少しずつ浮かんでくる。
不安とか、寂しさとか、理由の分からない焦りとか……
ちゃんとあったのに、日中はその全部を押し込めていたんだろう。
月は何も言わないのに、なぜか見つめられている気がする。
「平気なふり、してたね。」「本当は苦しかったんじゃない?」
そんな声が聞こえる気がして、胸の奥がじんわりとほどけていく。
眠れない夜って、心が“ここにいるよ”ってそっと知らせてくれているのかもしれない。
弱さじゃなくて、ただ、ちゃんと感じているだけ。ちゃんと、生きているだけなんだ。
月を眺めていると、少しずつ息が深くなっていく。
胸の中で渦巻いていたものが、静かな湖みたいに落ち着いていく。
そして気づく。眠れなかった夜も、こうして過ぎていくんだなって。
窓の外がわずかに青みを帯びる。夜明けの気配。
目を閉じて深呼吸をすると、心の奥に少しだけ余白ができていた。
眠れなかったはずなのに、不思議と少しだけ軽い。
これでいい。今はこれでいいんだ。
月は薄れていくけれど、その光はまだ胸の中に残っている。
静かに、やわらかく。
私はそのまま、新しい朝を迎えにいく。




