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メタファー-心の物語-  作者: 一月の山羊


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10/12

水底で聞いた声

息が苦しかった。目を開けたら、僕は深い水の底に沈んでいた。

水面は遠く、光は揺れて届かない。


腕も脚も重く、浮かび上がろうと動かすたびに、水がゆっくりと身体を引き戻した。


「ここから、出られないのかもしれない」


そう思った瞬間、胸にふっと熱が走った。

涙なのか、水なのか、もう分からなかった。


静かで、冷たくて、何も感じないはずの水底で、僕は突然、自分の声を聞いた。


いや、“声のような何か”だった。

はっきりした言葉ではなかったけれど、確かに僕の胸の奥で響いていた。


『まだ終わりじゃない』


水の中なのに、その声はなぜか遠くから届く風みたいに感じた。


動けるほど強くはなかった。すぐに浮かべるほど軽くもなかった。


それでも、その一言が胸の奥に火をつけた。

小さくても、弱くても、自分の声を拾い上げる力だけは残っていた。


ゆっくり腕を動かす。ほんの少しだけ浮いた気がする。

それでもまた沈む。


でも、さっきと違った。沈んでもいい。今は、それでも進んでいる。


どれだけかかったか分からない。

水面に近づくたび光が強くなり、また遠ざかるたび心が痛んだ。


それでも、胸の奥であの声が何度も響いた。


『まだ終わりじゃない』


ようやく水面に触れたとき、僕は初めて大きく息を吸った。


水から出られたから生きられるんじゃない。

“生きたい”と思ったから、浮かび上がれたのだと知った。

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