水底で聞いた声
息が苦しかった。目を開けたら、僕は深い水の底に沈んでいた。
水面は遠く、光は揺れて届かない。
腕も脚も重く、浮かび上がろうと動かすたびに、水がゆっくりと身体を引き戻した。
「ここから、出られないのかもしれない」
そう思った瞬間、胸にふっと熱が走った。
涙なのか、水なのか、もう分からなかった。
静かで、冷たくて、何も感じないはずの水底で、僕は突然、自分の声を聞いた。
いや、“声のような何か”だった。
はっきりした言葉ではなかったけれど、確かに僕の胸の奥で響いていた。
『まだ終わりじゃない』
水の中なのに、その声はなぜか遠くから届く風みたいに感じた。
動けるほど強くはなかった。すぐに浮かべるほど軽くもなかった。
それでも、その一言が胸の奥に火をつけた。
小さくても、弱くても、自分の声を拾い上げる力だけは残っていた。
ゆっくり腕を動かす。ほんの少しだけ浮いた気がする。
それでもまた沈む。
でも、さっきと違った。沈んでもいい。今は、それでも進んでいる。
どれだけかかったか分からない。
水面に近づくたび光が強くなり、また遠ざかるたび心が痛んだ。
それでも、胸の奥であの声が何度も響いた。
『まだ終わりじゃない』
ようやく水面に触れたとき、僕は初めて大きく息を吸った。
水から出られたから生きられるんじゃない。
“生きたい”と思ったから、浮かび上がれたのだと知った。




