前世の彼氏が乙女ゲームに転生して、協力を求めてきます!
前、中、後編で考えて書いた作品ですが、少し説明不足だったり文章力があまりにも未熟なので短編としてアップしてみました。
ご講評なら連載化も挑戦したいです。
爽やかな春の風に髪を靡かせて、憧れの学園の門を潜った。これから入学式。一生懸命勉強していっぱい青春を……。
「お前!由香だよな!?」
いきなり、青髪、金目の素敵な男性が腕を掴んできた。
――え?今なんて?
「え……貴方、誰ですか?ちょっと止めて下さい」
「俺だって、芳貴!お前の彼氏!」
必死に逃げようとしていた私はその言葉を聞いて動きを止めた。
は?前世の彼氏のヨシキ?大学生の時の?なに??
「いやいやいや、ちょっと待って下さい……え?」
芳貴は前世の彼氏の名前だ。
あいつがこんなにイケメンに?あなた、別に前世で徳は積んでなかったよね?
私はミリィ。ただの平民で、前世の学力をそのまま活かしてこの学園に入学した。しかも特待生でだ。
「お前、乙女ゲームのヒロインだろ!気づけよ!」
私が、ヒロイン?
そんなわけ……。あるのか? あるのかも……?
でも、別にお気に入りの乙女ゲー厶やら、思い入れのある物語なんてあったっけ?
前世の記憶。芳貴、は関係ないか。そして平民の特待生?
これは……!そうなのかも……?テンプレってやつ?
でもそんなに都合がいい事ってある?
――いえ、そんな事より芳貴の方が気になるわ!
私は青髪の彼に、逆に掴みかかる。
「さあ、お前の罪を数えろ!」
「いや、それあのライダーさん……」
バッチーン! 芳貴を名乗る男の頬を叩いてやった。
「右の頬を叩いたんだから、左も叩かせろ!」
「いや、それは色々ヤバい……」
左も叩いてやった。よし、理解したわ。これは芳貴で間違いない。話が通じている。前世の懐かしいやり取りも思い出した。
「で? なんで今更私に声かけるのよ?」
思い出しても腹が立つ。こいつは、私の誕生日の数日前に浮気をしていたクソ野郎だ!
「タイトルとか忘れたけど、俺、自分の顔に見覚えがあるんだよ。メインヒーローの右か左に居るやつ」
「あー。それでも芳貴には勿体ない役どころだわ」
「酷くない?」
「酷くないわ、この浮気野郎!私の友達に手を出すなんて、とんだ二股野郎ね!」
「は!?浮気!?そんな事していない!」
「したわよ!ちゃんと聞いたもの。それにあんたの部屋の……!」
――合鍵も渡していたじゃない、あの子に。
何よ、今更言い繕っちゃって。
「まぁいい。違うって言っても信じてくれないし。俺が言いたいのは、これ死人が出るタイプの話かもしれないって事だ!」
「は?」
「俺が好きだったジャンルを覚えてるか?サスペンス、ホラー、パニック、グロ、サイコパス……」
「そしてエロね」
「否定は出来ないが……。はぁ。とにかく普通じゃない可能性があるって事だ。サイコパス野郎とかにアレやコレやされるのは想像したくないだろう」
それは否定できない。そんな事は現実ではごめんだ。
二次元でもサイコパスホラーなんて勘弁だ。
「攻略対象に近づかなきゃいいんでしょ?私、別に恋愛に興味ないし。平民にいちいち声かけてくる貴族って上から目線で、自分に酔ってるナルシストばかりだもの」
前世を引きずっていないとは言い切れない。でも分けて考えないといけない。
もうあの頃とは別人の二人で新たに出会ったのだ。
――でも。
「裏切られた気持ちは残ってるんだよ、浮気野郎」
「……本当に違うんだって」
なんであんたがそんなに傷ついた顔するわけ?
私が傷ついたのに。
◇◇◇
『由香、あなた芳貴にいいようにセフレにされて遊ばれているだけみたいよ?ほら、これ』
目の前に掲げられる、見覚えのある合鍵。
あいつの好きなアニメのキャラクターのキーホルダーが付いた鍵。
『信じられないなら、後をつけて自分の目で確かめたらいいじゃない?今日、八時にラブホで待ち合わせしているからさ』
あの日は雨が降っていた。
七時過ぎから、彼の家の近くで蹲って出てこない様に祈っていた。
しかし、祈りは届かなかったらしい。彼は部屋を出て何処かへ向かっていく。しかも、電話をしながらだった。
傘で顔を隠しながら、私は芳貴の後をつけていった。
――浮気?あの、馬鹿みたいに正義感の強い芳貴が?
強い疑念もあった。
芳貴が、二股なんてするわけがない。
――でも、私に言い出しにくいだけだったら?
この前も誕生日にデートの約束を取り付けてしまった。
このタイミングでは、別れを切り出せなかっただけなのでは?
ホテルの前でもう一回スマホで誰かに連絡をして、中から出てきた女に抱きつかれていたのだ。勿論相手は、私に芳貴の浮気を伝えたあの子だった。
――それを、何処かで漫画か映画のように鑑賞している私がいた。
しばらく経って、彼らが同じ傘で歩き出した時に。
はじめて私は自分が涙を流している事に気づいた。
「芳貴、ちゃんと私に謝って別れてから他の女に手を出せーーー!!」
彼らが視界から消えた瞬間に大声で罵った、
今の私は惨めで。それくらいしか出来ない自分にも情けなくて涙が溢れて止まらなかった。
家に帰る途中。
いつの間にか、義弟のヒロが私の隣に立っていた。
「こんな場所、治安が悪くて危ないよ。早く家に帰ろう。傘持ってるのに、何やってるの?びしょ濡れじゃん」
「うん……」
黙って、ヒロについて行った。
母の再婚で出来た弟。もう既に気軽に会話できる。
幼い頃から懐いてくれて、本当の家族のように暮している。
私は、芳貴を問い詰める勢いも勇気も無くし、ただ自分の部屋で泣きたい気分だった。
そんな私の落ち込みようが心配になったのか――。
「由香姉ぇ、今日はガッツリ肉でも食べて帰らない?」
最近はお互いに違う大学に通ってちょっと疎遠になっていた義弟から誘われた。気遣ってくれている。
「いいわね!お小遣いそんなにあったかな……」
軽いやり取りをして、奢る、奢らないと言い合いながら、大通りに向かって歩いて行った。
――その後の記憶がない。
あの時に、死んでしまったのかもしれない。
ヒロはどうなったのか。芳樹は何故死んだのか。
◇◇◇
「私はあの日に死んだのかしら?ヒロは?ヒロも一緒に死んじゃったの?」
「――いや。あの日死んだのは由香だけだった」
彼の後悔が滲んだ苦しげな顔と声。
(もういいか。『由香』は死んじゃったし。『芳貴』も生まれ変わったならもう責めなくてもいいんじゃない?許せるかどうかは別だけど)
「しかし、あんたがこんなピンク髪のヒロインなんてベタな乙女ゲーをしていたなんてね?笑える!……いや、ジャンルが怪しすぎて笑えないか……」
「それでも。今度こそ、絶対にお前を守るから」
怖いくらいに真剣に私と目を合わせて言う。
少し気不味い。グッと彼の肩を押して距離を取った。
――近い近い。この世界は、貞淑第一なのよ!
「ありがとう。取り敢えず頼りにしてるわ」
そういえば芳貴の、――いや。今の名前聞いてないわね。
「そういえば、あなたの名前は?」
「エルリック・レリアント」
長ったらしい名前になったもんだ。
あの芳貴が、イケメンで攻略対象?笑える。気障ったらしい台詞を言っちゃうの?
聞いてみたいわー。
「私はミリィよ。平民だから苗字はないわ。宜しくね、エルリック様」
「あぁ、ミリィ。またよろしく」
ザワザワと周りが騒がしい。
平民と多分高位貴族のエルリックの親しげな様子に皆が驚くのも無理はない。
――そして、それは嫉妬をも呼び込むものだった。
こいつのせいで、私は色々と困難な学園生活を送る羽目になるのだった。
生まれ変わったら、元カレが――!とか求めていません、神様!




