九話
「いやーほんと綺麗になったわね、雪音ちゃん」
「ありがとうございます、静香さん」
夕方のハプニングから少したち夕食の時間となり、俺たちは母親の作った飯を食べながら食卓を囲んでいた。
前提として、我が家の食卓はいつも賑やかである。
が、今日は特段賑やかな話し声が聞こえていた。
「雪音さんとご飯食べるのすごく久しぶりですね」
「そうだね、美優ちゃんももう中学三年生か」
「そうですよー来年から華のJ Kです!」
そういって雪音に無邪気な笑顔を向けるのが、俺の妹である神崎美優だ。
俺と同じ真っ黒な髪を肩で切り揃えていて、顔立ちは俺に似ているのか似ていないのか、少しあどけなさの残る美人だ。
そんな我が家の自慢の娘である美優は、母の神崎静香に似てコミュ力も高く、こうして久しぶりに会った兄の幼馴染とも普通に話せているのだ。
「いやーほんと、我が娘も順調に育っているけど、やっぱり雪音ちゃんはちょっと別格ねほんと。お母さんに似てとっても大人な女性になったわね」
「いえいえ、美優ちゃんだって静香さんに似て美人に育っていますよ」
「あらやだ嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「ほんと、雪音さんに美人なんて言われたら恐れ多いですよ」
キャッキャウフフとガールズトークに勤しむ三人を横目に、俺は居た堪れなくな理ながら黙々とご飯をかきこんだ。
「でもうちの息子はねーもう高校生だっているのに彼女の一人もできる様子もなく部屋で引きこもってるから」
「悪かったな、出来の悪い息子で」
「そんな悪く言わないであげてください。実際私だってまだ誰ともお付き合いしたことありませんし」
「雪音ちゃんはね、選び放題だから」
「いえそんなことないですよ」
「またまたー。告白だってしょっちゅうされるでしょ?」
「いやほんとに数えるぐらいしかされたことないよ?」
「なるほど高嶺の花すぎるのかな。私だったら絶対こんな美女ほっとかないけどな」
そう言って雪音を舐め回すように見た後、俺の方に視線を送って、落胆する美優。
おいなんだその雪音に比べてうちの兄ときたらといいたそうな目は。
お兄ちゃん悲しくて泣いちゃうぞ?
「はあー。雪音さんみたいな人がお兄ちゃんの彼女だったらどれだけ安心できることか」
「別に祐希くんだって魅力はあると思うよ?学校でも結構話題に上がってるし」
「ほんとですか?それって悪い噂とかじゃないんですか?」
「いやそんなことないよ?」
「おい妹よ貴様は兄をなんだと思ってるんだ」
「いやー家で見てる感じだとモテる要素ないかなって」
俺の隣で嫌そうな目を向けてくる美優のこめかみを拳でぐりぐりとして制裁を加える。
「でもほんと、祐希くんは人気がありますよ」
「それがほんとなら、彼女ができるのもそう遠くないかもね」
「それが雪音さんなら直良だけど」
「あはは、それはどうでしょうね」
母と妹の猛アピールに、反応に困って雪音は苦笑いしかできていなかった。
無理もない。当の本人を目の前にして嫌だともいいとも言えるわけがないのだから。
居た堪れなくなった俺は、ちゃっちゃと残りを食べてしまった。
「ご馳走様」
「あ、祐希。お風呂は先に雪音ちゃんに入ってもらうから、あんたのぞいたりしないでよ」
「しねーよ」
俺は食べ終わった食器を持って行きながら母親からの若干気まずいイジりを軽く流した。
そして、気まずさが伝わる前に、俺はそそくさと自室へと向かった。
俺が去った後も、にぎやかな話し声がしばらくの間続いていた。
部屋に戻ってから溜まっていたラノベを読んでいると、扉がノックされた。
俺が返事をすると、そっと扉を開けてこちらをのぞいてきたのは雪音だった。
「あの、お風呂上がったから、次祐希だから声かけてって」
「ああ、ありがとう」
そう言って扉からひょっこりと姿を見せている雪音は可愛らしいピンクの部屋着を着ていた。
風呂上がりということもあり、袖から伸びる少し赤く染まった肌は妙に艶っぽく、昔とは似ても似つかない大人な女性になっていることを嫌でも理解させられた。
変わってしまった雪音の姿にドギマギしている俺をよそに、彼女は夕方とは違って恐る恐るといった様子で俺の部屋に入ってきた。
「どうしたんだよ」
「いや、えっと、その」
俺がそう声をかけると、雪音は少し慌ただしく口をもごもごとさせた。
何かを言いたげなのは理解できたが、その言葉までは聞き取ることが出来なかった。
俺はそんな状況が少し気まずくて、空気を払拭するためにちょっと雪音を茶化すことにする。
「なんだよ、部屋着でも見せにきてくれたのか?いいじゃん可愛くて」
「は、はー?なんでそうなるのよ!ばか!」
「おうおうそれでこそ俺の知ってる雪音だよ」
「祐希こそ学校ではずいぶん大人しくなったと思ってたけど、変わってなさそうで安心した」
そういって呆れた表情で腕を組んだ雪音は、先ほどまでの何かを考えていた表情は消えていた。
「雪音さーん早く映画見ましょー」
「待ってて、すぐ行く!」
俺たちが学校では絶対に見せることのない小競り合いをしていると、遠くから美優の声が聞こえてきた。
雪音はその声に外向きの返事をすると、一瞬俺の方に顔を向けた。
「じゃ、呼ばれたから」
「おう」
俺の返事を聞いてから、雪音はそっと扉を閉めて美優の元へと歩いて行った。
「こんな調子で一週間、先が思いやられるな」
俺は苦笑いをしながらそう呟き、さっさと風呂へと向かった。
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