五話
カーテンの隙間からチラチラと差し込む朝日で目が覚めた。
手元のスマホで時間を確認すると、まだ六時半だった。
「アラーム前に起きるなんて久々だな。我ながらちょっと楽しみにしすぎじゃないか?」
俺はカーテンを開け、日光を浴びる。
暖かい光は体に朝がきたことを優しく伝えてくれる。
まだ眠気の残る目をこすりながら、俺は体を起こし、顔を洗いに行った。
今日は日曜日。
葵と映画を見に行く約束をしている日だ 。
原作は読んでいるので内容は知っているとはいえ、俺の大好きな作品の映画なのだ。
楽しみで仕方ないに決まっている。
きっと、女の子と出かけるからではない。
断じてだ。
「せっかくだし、風呂入ってから行くか」
俺は寝癖で跳ねている髪の毛を鏡越しに見つめてそう呟いた。
時刻は十時半を少し回った頃、俺はちゃっちゃと準備を終わらせて駅から少し離れた映画館の前の時計台へとやってきていた。
駅前は人でごった返していて人を探すのが難しいので少し離れたところで待ち合わせをするのが一般的だったりする。
たくさんの人が俺の前を行き交う中、俺は待ち人をチラチラと探しつつ、スマホで来季のアニメの情報を漁って時間を潰していた。
「お待たせー!」
聞き馴染みのある声が聞こえ、俺はスマホをポケットにしまった。
視線の先には断歩道を渡りながらこちらに手を振っている美少女が一人いた。
普段なら絶対に自分ではないので無視をするのだが、今日だけは俺だという確信があったので手を振り返した。
「おう、俺もさっき来たとこだ」
「はぁはぁ、お気遣いのテンプレありがとう」
遠目に見ていたよりもかなり疲れていた様子の葵は、膝に手を置いて洗い呼吸をしている。
まぁ、無理もないだろう。
集合時間は十時で今は十時十分。
即ち遅刻だ。
「ま、女の子は準備に時間がかか流っていうしな」
そう言って、俺は親指を立てた。
「映画代は出させてもらいます」
「いや、別にいいよ映画には間に合うし」
「いいえ、流石に払わせてください今後の関係のためにも」
「じゃぁ遠慮なく」
葵のあまりの迫力に、俺は後退りしながら提案を受け入れた。
なんだかんだ言って、こうやって対面で話すのはあれ以来二回目だったりする。
正直あの時は驚きと興奮で何も考えずに話せていたけど、時間を置けば置くほど次もちゃんと話せるかはかなり不安だった。
しかしそんな不安は杞憂に終わり、俺たちは普通に話すことができていた。
「今度こそほんとに遅れるし行こうぜ」
「ほんとだ、行こっか」
俺たちはそういうと少し早歩きで映画館へと向かった。
「うぅ。瞳は頑張った、頑張ったよぉ」
「だな。幼馴染が負けヒロインだと分かっていても、受け入れられないことだってあるんだよな、ほんと」
「五紀を笑って送り出すシーンあれ胸がいたくて」
「だよな、そんな瞳の心情なんて理解もせずに走り去っていく五紀がまた辛い」
映画が終わり、芝生のある広場に来た俺たちは、人目も気にせず涙を流しながら熱く語り合っていた。
もちろんネタバレにならないように声量は意識しながらだが。
「でもやっぱ、最後の五紀と日菜のデートシーンは最高だったなー。なんかちゃんと付き合ったんだなって感じがして」
「いやいや、最初の瞳とのデートの方がいいでしょ、この恋に幸せな未来がないと分かっていながらも、今という幸せを噛み締めている感じがさ」
「葵、もしかして瞳推しなのか?」
「祐希こそ、日菜推しなの?」
「当たり前だろ、茶髪のボブの良さがわからなのか?」
「あーそうですかそうですか、量産型が大好きな祐希には、金髪ツインテール幼馴染の良さがわからないんだ」
「おいおい金髪ツインテールツンデレ幼馴染なんてテンプレの王道ヒロインが好きな人に量産型とか言われたくないんですけど」
感想を熱く語り合っていたはずの俺たちは、いつの間にか意見が割れて言い合いになっていた。
今まで意見が割れることはなく、お互い趣味が合いすぎて怖いぐらい話が盛り上がっていたのだが、今回は違う意味で話がヒートアップしていた。
「はー所詮勝ちヒロインにしか興味がないだけの萌え豚なんでしょ祐希は」
「負けヒロインの涙に心揺れてるだけの涙腺弱弱マンの葵にそんなこと言われたくないなー」
「なんだって?もう一回言ってみる?」
「はいはい、何度でも言ってやるよ涙腺弱弱マン」
俺たちの初めての意見の相違は、小競り合いからだんだんと喧嘩のようになっていく。
それにしても、内容がしょうもなさすぎる。
しかしながら俺たちはどちらもキャラを愛している生粋のアニオタ、いくら相手が友達であろうと、譲れない部分はあるのだ。
「こうなったらとことん討論仕様じゃないか」
「いいわよ。絶対に瞳の良さをわからせてあげるんだから」
俺たちはともにオタクである。
そしてオタクとは、自分の好きなものがとことん大好きなのだ。
それを馬鹿にされることは基本的に耐え難い。
そしてまた、オタクとは自分の好きなものを布教したい生き物でもある。
即ちわかるだろう。
これから行われる討論は、ただ自分の好きなものを好きだというだけの側から見たら無駄極まりない内容だということを。
しかし、一度スイッチの入った俺たちは、そんなことを考えられるわけもなく、あまりにも熱すぎる思いをぶつけ合うのだった。
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