二話
放課後、部活動に向かうものや、友達との談笑に花を咲かせるもののいる中、俺は一人家と真逆の方に向かっていた。
行き先は少し大きい本屋だ。
なぜ俺が一人でそんなところに向かっているのかというと、それは人に知られたくない秘密があるからだ。
「あった」
本屋に着いた俺は、早速目当てのものを見つけて手に取った。
そう、俺は何を隠そう超が付くほどのオタクなのだ。
今日は俺の大好きなラノベの最新刊の発売日だったため、誰にも気が付かれないように学校から少し離れたところまで来ていた。
幸いにも一番の友達である諒太は部活動があるため放課後は比較的一人になりやすかった。
まぁそもそもなんでオタクであることを隠しているかというと、簡単な話だ。
特に目立たず、それでいて害のない、平々凡々とした人間であることを俺は求められているからだ。
オタクなんていうキャラをつけてはいけないのだ。
いくら寛容になって今の世の中とは言え、若干のマイナスイメージがあるのは拭えない。
俺が目立っては、ダメなのだ。絶対に。
アニメは昔から見ていたわけではない。
きっかけは色々あったが、中学の頃ぽっかりと穴の空いた俺の人生を埋めてくれたのがアニメだった。ただそれだけだ。
「よし、あとはこの辺かな」
そう言って、俺は目当てのもの以外にも気になる本を数冊手に取り、レジに向かおうとした。
あまりにもワクワクしていたこともあり、あまり周りを見れていなかった。
それが、いけなかった。
「キャッ!」
俺が振り返った瞬間、一人の女の子とぶつかってしまい、転ばせてしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
俺は慌てて誤り、手を差し出した。
「はい、ありがとうございます。コチラこそ不注意ですみません」
そう言いながら俺の手を取り立ちあがろうとする女の子。
ふとその子をしっかりと見ると、うちの高校の制服を着ている。
しかも、その顔に少し見覚えがあった。
「あれ、えっと、松山さん、だったっけ」
俺がなんとか絞り出した名前は、今朝自己紹介で聞いた気がする名前だった。
「あ、同じクラスの、えっと確か神崎くんだっけ」
「二度目まして?でいいのかな。同じクラスの神崎祐希です」
「同じクラスの松山葵です」
そう言って、彼女はにっこりと笑った。
彼女のことは、実は一年の時から知っていた。
艶やかな黒い髪は腰あたりまで伸びていて、雪音と負けず劣らずの顔立ちは日本人的は美しさだ。
胸は……まぁ慎ましいが、すらっとしたボディラインもあって着物が似合いそうだ。別に他意はない。
そんな彼女は、稲塚学園の二代美女だなんて呼ばれていたりする。
和の松山葵、洋の白河雪音とか呼ばれていた気がする。
そうやってセットにされる理由は、一年の時から二人は同じクラスでよく一緒にいるところを目撃されるからだったりする。
「確か雪、白河さんと仲良かったよね」
「そうだね、一年生の時から一緒だったから」
そんな会話をしながら、俺はふと自分の置かれている現状に気がつく。
右手に持った、数冊のライトノベル。
目の前には高校のクラスメイト。
考えるまでもなく理解できた。
この状況はまずい。
ここまで四年間周りに隠し通してきたのだ。
こんなところでバレるわけにはいかない。
俺は動揺を表に出さないように、慎重に物を隠しつつ、その場を脱出する手立てを考える。
「俺、これから用事があってさ、そろそろ行くわ」
「え、あ、うん。私も用事あるんだった」
俺が忍足でゆっくりと後退しながらそう言うと、彼女もまた少し後退り気味に返事をした。
ちょっと疑問に思うところもあったが、今は我が身が最優先だ。
俺はそう自分に言い聞かせると、すぐにその場を立ち去ろうとした。
したのだが、視界の端に見覚えのあるイラストが飛び込んできた。
「君恋……」
ほとんど無意識だった。
俺は彼女の手に持たれているラノベのタイトルの略称を口にしていた。
「え?」
きこえるかどうかギリギリの俺の声に反応する彼女。
と、同時に俺は失敗したことに気がついた。
いくら反射とは言え、ラノベの作品名を口にするなんて過去一度もそんなミスはしなかった。
というか、流行りのアニメだったとしても、へー面白そうだなと流す程度で済ませていたというのに、完全にやらかした。
相手は雪音の友達の女の子。
完全にアニメとか縁がなさそうな……って、ん?
どうしてそんな子の手にラノベがあるんだ?
思考に脳の処理が追いつかない。
「え、神崎くんもラノベ読むんだ」
「あ、いや、その」
そう言った彼女の視線の先には、間違いなく俺の手に取られた本があった。
バレてしまった、間違いなく。
そのことで頭がいっぱいだった俺は、脳みそがショートして急に冷静になった。
そして、冷静になってわかった。
彼女は今、俺もと言った。
「もしかして、松山さんも?」
「あはは、実はねー」
そう言って、頬をかきながら愛想笑いをする。
驚きだった。
まさか松山葵が、アニメの世界から真逆に住んでいそうな彼女が、アニメどころかラノベを読むような人だったなんて。
と、心の中でそう言って、俺はハッとした。
俺は無意識のうちに、彼女に俺のイメージを植え付けてしまっていたのだ。
学年でもトップの容姿と人気の彼女が、まさかオタクだなんてありはしないと。
それは、俺が一番嫌なことで、悩んでいたことだったのに。
「知らなかったよ」
「まぁね、隠してたし」
俺は自分への謝罪も込めてそういった。
そうしてしばらくなんとも言えない緊張感が走ったあと、彼女の方が均衡を破った。
「ねぇ、付き合ってよ」
「へ?」
あまりの急展開に、俺の脳みそは思考することを諦めた。
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