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十四話

 最初の連休が明け、俺は重い足を引き摺りながら学校へと向かった。


 皆休み明けというのはどうしてもブルーな気分になるものだ。

 最も、俺の足取りが重いのは、休み明けだからというわけではないのだが。


 理由は簡単。

 雪音と関わることで、俺の生活がどう変化するかが目に見えいているからだ。


 また、昔のように友達に戻ることを決めた俺たちだったが、実際問題いきなり前のように学校で関わるのは無理がった。


 当たり前だが、今の俺は全く認知されていないというわけでもないが、クラスの中心でもない普通の人間だ。

 対して雪音はクラスの中心で学年のマドンナ。


 そんな二人が突然仲良さそうにしだすと、それはもう付き合っていると勘違いされるだろう。

 そうなるとまた話がややこしいので、まずは挨拶から始めて徐々に距離を縮めようと話し合った。


「おはよう、祐希」

「おう、おはよう諒太」


 気だるそうな生徒が多い中、いつもと変わらぬ明るい様子の諒太が、いつも通り俺の席へとやってきた。


「お前なんでそんなに元気なんだよ」

「ふふふ。俺にとっちゃ、休みの方が退屈なのだよ」

「まじかお前、すげーな」

「三連休毎日部活あったからでしょ、全く馬鹿なこと言ってないでさっさと日誌持って行ってよ」

「あ、わりい」


 元気アピールをしていた諒太だったが、河原さんが日誌を持って割り込んでくると、タネを明かされたマジシャンの様にしょぼんとしてしまった。


 しかしなるほど、確かに部活をしている人は休みが休みではないのか。

 そう考えると本当にすごいな。


 俺は部活をしている人の凄さに改めて感心しながら、横目で諒太の様子を観察していた。


「千夏ちゃんも元気そうだけど、休みは何してたんだ?」

「勉強と家事」

「わーお。すごいな、流石に尊敬」

「ま、あんたも毎日部活頑張っててすごいと思うけどね」

「あ、ありがとう」


 淡々とした口調で諒太のことを褒める河原さんと、それを受けていつものお調子者っぽい感じが崩れてしまっている諒太。


 はは、なんか新鮮でおもしれー。


 日誌を渡した河原さんは、それよろしくとだけ言って自分の席へと戻って行ってしまった。


 俺が新鮮な諒太を見ていると、俺の視線に気がついた諒太が睨んできた。


「なんだよ」

「別にー」


 俺がそう言ってニヤニヤとすると、いつものようにクラスが少しざわつきだした。


「おはよう、雪音」

「おはよう、葵ちゃん」


 相変わらずの二人の挨拶から始まる光景が広がり、俺がそっちから視線を外すと、後ろから声をかけられる。


「おはよう、祐希」


 あまりに自然に、今までもそうしていたかのように、俺の元へと歩み寄ってきて挨拶をする雪音。


 俺はこれから先未来で起こることを理解し、覚悟を決めて返事をした。


「おはおう、雪音」


 極々普通の挨拶。

 だが、それが学園の天使様と冴えない一生徒という関係性を追加するだけで、突如として普通ではなくなってしまうのだ。


 それは周りの反応で理解できる。

 驚きすぎて、教室が時が止まったかのような静寂に包まれたのだ。


 その静寂をやぶっったのもまた、雪音だった。


「諒太くんも、おはよう」

「おう、おはよう白川さん」


 雪音は外用の完璧な笑顔を向けて挨拶をすると、また自分の席へと歩いて行ってしまった。


 たった一瞬の出来事ではあったが、雪音が席に戻って葵に話かけたところで、ようやく皆が一斉に驚きの声を上げた。


 俺はその声を聞いて、頭を抱えるしかできなかった。




 その日の放課後、帰宅した俺は速攻でベッドにダイブした。


 質問攻めの雨嵐……になると予想していたが以外にも誰一人その話題について触れる人はいなかった。

 というかむしろ誰一人としてその話題に触れることができる人がいなかった。


 全くもって男関係の話がなかった雪音が、突然クラスメイトの男に挨拶をしに行ったのだ。


 ただ、俺の中でこの話が大きくならなかった要因があることはわかっている。

 それは諒太の存在だ。


 性格は馬鹿だが、外見はイケメンである諒太には彼女はいない。

 つまり、雪音は諒太にようがあって、その踏み台として俺にも挨拶をしたのだという解釈をされたのだろう。


「諒太に助けられたな」


 自分で言ってて悲しくなるが、実際問題そうだった。

 内情を知らない周りの人間にはきっとそう見えていたのだろう。


 しかし、ではなぜ俺が疲れていたのか、それはまた別問題だった。


 話しかけてくるやつはいなかった。

 しかし、視線はすごい数向けられていた。


 無理もないだろう。

 諒太の踏み台とはいえ、学園の天使からわざわざ声をかけてもらったのだから。


 それは恋愛的な要素じゃなくても十分嫉妬に値する出来事だった。


「はあ、まあ覚悟はしてたけど、きついな」


 俺はあの惨状を思い出して少しため息をついた。




 しばらくすると晩御飯の時間になり、呼ばれた俺はリビングへと向かった。


 すると食卓には俺の好物のオムライスが並べられていた。


「今日は雪音ちゃんが作ってくれたのよ」

「今日まで一週間お世話になりましたのでせめてこれぐらいはさせてもらいたくて」


 そう言われて思い出す。

 雪音の親が明日帰ってくることに。


 思えば、この一週間は色々とあってあっという間だった。


 席に座った俺たちは、早速ご飯を食べ始めた。


「美味しい」

「ほんと、雪音さんさすがです!」


 そう言って、雪音をベタ褒めする二人。


 俺も遅れて口に運ぶと、そのおいしさに驚く。


 俺はケチャップライスよりもバターライスの方が好きなのだが、見事に俺の好みドンピシャの味だった。


「簡単なものですみません」

「そんなことないわよ、ありがとう」


 そう言いながら一口、また一口と食べ進める母さん。


 そして、突然ピタッとその手を止めると、感慨深い顔をしながら喋り出した。


「それにしても、あんなに小さかった雪音ちゃんの料理を食べる日が来るなんてねー」

「ほんと、雪音さんみたいなお姉ちゃんが欲しかったなー」


 既視感のある会話に、入るタイミングを伺っていた俺は真っ先に食いついた。


「妹が増えると兄貴は大変だけどな」

「何言ってるの祐希」

「ほんと、雪音さんがお姉ちゃんでしょ」

「だって」


 俺の渾身の一言は、女性陣から総スカンを食らった。

 え、妹だと思ってたの俺だけなのか?


 確かに雪音は俺よりしっかりしてる部分が多いので、よくよく考えればそうなのかもしれない。


 そんな感じで四人で談笑しながらのご飯は、まあそれなりに楽しかった。




 ご飯を終えると、先に雪音が風呂に向い、俺と美優で皿洗いをした。


「でもよかった、二人が仲良くなってて」

「え、何が?」


 突然の話題に俺はと惑いを隠せなかった。


 そんな俺を横目に、美優は全部お見通しなんだよ妹にはと言いながら話を続けた。


「最初は明らかに距離が遠かったからね二人とも」

「そうだったのか」

「そう。でも、今日はなんだか仲良さげだった」

「そっか。だとしたら美優のおかげかな」

「ふっふっふ。お手柄かな?」

「あーお手柄だ。ありがとう」


 俺はそう言って、美優の頭を撫でた。


「ま、何があったか知らないけど、また何かあったら相談しなよ」

「ああ、そうさせてもらうわ」


 ほんと、俺と違ってつくづくできた妹だなと改めて思わされた。

この作品を読んで頂きありがとうございます。


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