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十三話

 カフェで休憩した俺たちは、少しだけ歩いたあと、すぐに帰路についた。

 理由は単純、話が盛り上がらなかったからだ。


 表面上は楽しそうだが、中身がふわっとしすぎていて続かない。


 最寄駅につき、二人でゆっくり歩いて家に向かった。

 隣には並んでいるが、半歩ほど距離をとって。


 そうしてもうそろそろ家に着こうかというとき、雪音が沈黙を破った。


「あのさ、祐希」

「どうした?」

「やっぱり、今日は楽しくなかった?」

「いや、いい休日を過ごさせてもらったよ」

「そっか」


 そう返事をした雪音は、少しだけ歩くスピードを落とし、やがて立ち止まってしまった。


 それに気がついた俺も立ち止まり、振り返った。


「どうした?」

「ちょっと、寄り道して帰らない?」

「ああ、いいぞ」


 街灯に照らされた雪音の表情は、少しだけ、笑顔の中に悲しさが隠れていた。


 そんな表情をされると、断ることができなかった。





 人気のない、暗い住宅街を黙々と歩き、ついたのは小さな公園だった。


「懐かしいな」

「でしょ?」


 そう言って、笑顔を見せる雪音。

 その顔は、記憶と重なり、昔の雪音に見えた。


「覚えてる?中学の時、同級生に嫌がらせされて私がここで泣いてたら、祐希が助けに来てくれたこと」

「ああ、覚えてるよ」


 忘れるはずもない。

 あの日、教室で雪音に突き撥ねられ、そして決断をしたのだから。


「私さ、ずっと後悔してた」

「やめろよ、お前は悪くないんだから」

「それでも、私はずっと祐希に謝りたかった」

「もういいんだよ、その話は」


 そう言って、思い出す。


 あれは、中学一年の夏休み前の話だ。


 小学生の頃から異彩を放っていた雪音だったが、中学に入るとそれは顕著になり、かなりの男からもモテるようになった。

 しかし気の弱かった雪音は、その視線に対してどうすることもできず困っていた。


 そんな雪音を俺は守るために、いつも一緒にいるようになった。


 登下校も休み時間も、二人ではないが常に一緒に行動していた。

 守りたい気持ちもあったが、単純に一緒にいるのも楽しかったから、俺にとって苦痛ではなかった。


 しかし、それがだめだった。

 クラスのリーダー格の女子が、俺に好意を寄せ、そして常に一緒にいる弱い雪音へ取り巻きが嫌がらせをするようになった。


 自慢じゃないが、中学の頃の俺はモテていた。

 中一で出会った諒太と、クラスの中心人物として盛り上げていた。


 目立っていた俺の近くにいた雪音も目立ってしまった。

 もちろん、俺がいなくたってその容姿は一際目立つものではあったが。


 そうして始まった嫌がらせは、俺の前では行われず、裏で無視をしたりハブられたりという陰湿なものだったらしい。


 そして、あの日、放課後の教室だ。

 誰もいない部屋に、夕日が差し込み、そんな光を背景に雪音は俺に告げた。


『もう、私に関わらないでほしい。迷惑、だから』


 衝撃以外の何もなかった。

 ずっと、仲良くできていると思っていたのは俺だけだったということに戸惑いと悲しさが込み上げてきた。


 俺にそう告げた雪音は、そのまま教室から逃げるようにでていった。

 残された俺が、ふと扉の方を見ると、人影があるのがわかった。

 そして、全てを理解した。


 雪音は、あいつらに言わされたのだと。


 あのリーダー格のやつが俺に好意があるのは気がついていた。

 だから、俺はすぐに理解することができたのだ。

 雪音が嫌がらせをされていることに。


 そうして俺も遅れて雪音を追いかけた。


 どこにいるのかわからず、ただただ近くを探し回った。

 雪音の親に聞いても帰ってきていないと言われ、俺は日が暮れても尚探し回った。


 そして、この公園についた。

 ブランコに一人、涙を流しながら座っている雪音を見つけた。


『強くなれ、雪音。必ず俺が守るから』


 返事は聞かず、俺は立ち去った。


 雪音はきっと、これから変わる。

 そして、俺という存在は邪魔になる。


 ならば簡単だ。

 俺は目立たず生きればいい。

 もし、雪音との関わりがバレても、嫉妬されない人間になればいい。


 雪音は上で、俺は下。

 それなら、嫌な視線は全て俺にくるのだから。


 そうして俺たちは、関わらなくなった。


 突如として明るくなった雪音に、周りは最初こそ驚いていた。

 しかし、一ヶ月もしないうちに、雪音は周りと馴染むようになった。


 そして俺は、ひっそりと、確実に目立たないようにしていった。


 簡単だった。

 友達からの誘いを断り続ければ、いつしか俺の周りには人はいなくなっていた。

 最も、諒太だけは残っていたが。


 そうして、俺と雪音は今の関係になったのだ。

 住む世界の違う人間に。


「ねえ、私、強くなったよ」


 俺が昔を思い出していると、雪音がそう言ってきた。


「そうだな。もう、住む世界が違うもんな」


 俺は、そう言うしかなかった。


 俺が始めたことだ。

 だから、文句なんてない。


 けど、やっぱり時々思う。

 もう一度、あの関係に戻りたいと。


「あの時、私を守るために、全部を犠牲にしてくれたよね」

「そんなんじゃないよ」

「ごめんね、私が弱いせいで」

「だからいいって」


 本当に、もういいんだ。


 あの時の心の穴は、偶然にもアニメという形で埋まったのだから。

 そのおかげで、出会えた人たちもいるんだから。


「今度は私が守るから、私たち、前みたいに仲良くできないかな」


 そういって、雪音は一筋の涙を流した。


 そうして俺は、ようやく雪音の顔を見た気がした。

 不安そうに、怯えている、昔の雪音がそこにはいた。


 ああ、俺は何をしていたんだろうか。

 俺は、雪音を守るために、距離を取ったんだ。


 でも、そんな弱い雪音はもういない。

 雪音自身で変わったのだから。


 そうして今、雪音は再度俺を必要としている。

 心の拠り所である俺を、必要としている。


 わかっていたはずだ。

 強くなり、遠い存在になった雪音は、一人で色々なものと戦っていることに。

 そして、わかっていながら、俺は逃げていたのだ。


 今の雪音にはもう、俺が必要じゃないのかもと恐れて。


 しかし、今、雪音は言葉にしてくれた。

 拒絶される恐怖を押し殺して。


 ならば、俺が選ぶべき答えは一つだろう。


「悪い。俺、逃げてた。雪音にはもう俺が必要ないんじゃないかって思うと怖くてさ」

「うん」

「だけどもう覚悟ついた」


 そうして、俺は満面の笑みで答えた。


「友達になろうぜ、俺たち」

「うん!」


 そう言って、雪音も満面の笑みをこぼした。


 ずいぶん遠回りをしたと思う。

 けど、こうしてまた、昔に戻るために一歩を踏み出せたのだ。


 俺はこれから先の未来に多少の不安を抱えながらも、目の前で笑っている雪音を守ることを、固く誓った。

この作品を読んで頂きありがとうございます。


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