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十二話

「どう?」

「うん、似合うな」

「ちょっと真面目に答えてくれる?」


 映画を見てから昼食を食べた俺たちは、現在雪音の服を見ていた。


 なんとも言えない空気になっていた俺たちだったが、昼食を食べるころには最初の感じに戻っていた。


 そうして俺たちはまたデートの続きをしていた。


「いや、悔しいけど雪音はなんでも似合うから」

「ちょっと、なんでも正直に言えとは言ってない」

「なんだよ面倒臭いな」


 注文の多い雪音に俺はやっぱり昔から子どものままだなと思いため息をこぼす。

 

 雪音はというと、顔を背けたかと思うと耳まで赤く染めていた。


 そんな姿に、俺は驚きを隠せなかった。

 雪音はアレだけモテるのだから、てっきり褒められ慣れていると思っていたのだが、こんな単純な褒め言葉でそこまで恥ずかしくなるのかと意外に思った。


 そんな様子を顔以外に微塵も出さずに、雪音は一着の服を手に取った。


「じゃあ、これとさっきのだったらどっちがいいと思う?」

「どっちも似合ってると思うよ」


 暖簾に腕押しのやり取りを続け、とうとう雪音は痺れを切らした。


「じゃあ、祐希の好みはどっち?」

「は?なんでそんなの聞くんだよ」

「別にいいでしょ。祐希が決めてくれないから仕方ないじゃない」

「自分で決めればいいだろ」


 と俺は言いながらも、少し考えるそぶりをする。


 今雪音が来ているのは、濃いベージュの二層構造のロングスカートに薄いベージュのノースリーブのトップスと夏らしさを感じるちょっと大人な感じの服で、もう一着手に持っているのが薄めの色のジーパンに白のインナーの上から白のシアーシャツを羽織った可愛らしさと少しの大人っぽさを兼ね備えたハイブリット型のものだった。


 正直どちらも似合ってると思うし、雪音が男とデートに行こうものなら気絶するだろうなとは思う。

 が、あえて俺の好みで話すなら一択か。


「手に持ってる方かな」

「ふーん。祐希ってこういうのが好きなんだ」

「なんだよ、答えてやったのに」

「べっつにーじゃあこれ買ってくるね」

「あ、ああ」


 せっかく答えてやったのに、雪音は少しニヤニヤしながら俺を煽り、そのまま試着室へと戻っていった。


 何がしたかったのかはわからないが、満足そうにレジに向かった雪音を見ると、ほんとに感情の忙しないやつだなとつくづく思った。




 その後も、デートは色々とありながらも無難に続いていった。


 最初こそ、学校で見せる天使の態度だった雪音も、だんだんと昔の態度に戻っていった。


 そうして少し疲れた俺たちは、ショッピングモールの中にあるカフェでいったん休憩することにした。


「結構疲れたね」

「だな。まあ二時間ぐらいずっと歩いてたしな」


 案内された席に座った俺たちは、メニューを見ながらそんな会話をした。


 店員さんにはいつもの天使モードで話している雪音だが、二人で話すときはいつもの感じで、その切り替えの凄さに俺は拍手を送りたくなった。


「それにしても、今日はまたなんで急に誘ってくれたんだ?」

「えっと、それは……」


 注文を終え、今日一日ずっと気になっていたことを俺は問いかけた。


 俺の質問に、雪音は少し言葉に詰まった。

 そして、少し考えてからぼそっと呟いた。


「だってそうしろって言われたから」

「え、どういうこと?」

「別に、休日ずっと暇そうにしてる祐希が可哀想だったから、幼馴染のよしみで誘ってあげただけ」

「それはどうも」


 なぜか少し怒気を含んだ口調でそう言ってそっぽを向く雪音。


 いや、こいつマジで感情の起伏どうなってんだよほんと。


「で、どうだった?」

「何が?」

「私とデートしてどう思った?」

「うーん、楽しかった?」

「あの、真面目にやってくれる?」


 俺がふわっとした感想を伝えると、既視感のある言葉が返ってきた。


「そうだな、なんか昔に戻ったみたいだったな」

「ほんと?」

「ああ。なんか遠くに行ったと思ってたけど、実際は昔と変わらず子どもっぽいなって」

「えっと私のこと馬鹿にしてる?」

「してねーよ。変わってなくて安心したってだけだよ」

「そっか」


 雪音はそう返事をすると、なんだか少し嬉しそうに、安心した顔を見せた。


 そうして少しの沈黙が流れ、俺が忘れようとしていた周りからの声が無駄に大きく聞こえてきた。


 あそこにいる子、可愛くね?

 だな。一緒にいる男は微妙だけど。

 カップルって感じでもないしな。

 そもそも釣り合ってないんだから。


 ありきたりな、嫉妬の言葉。

 ずっと、そんな視線は気がついていた。


 ただ、一つの言葉が耳に残る。

 釣り合っていない。


 そんなことはわかっている。

 俺と雪音は、幼馴染だからこうして関わっているだけだ。


 雪音の中身は昔と変わっていない。

 それでも、住んでいる世界は、変わってしまった。


 いいや、元から、気がついていなかっただけで、生まれた時からいたのかも知れない。


 そんなこと、中学の時から分かっていたじゃないか。

 だから、俺は関わらない選択をしたんじゃないか。


 あの日、そう決めたじゃないか。


「どうしたの?祐希」

「大丈夫。なんでもない」


 大丈夫。大丈夫だよ、雪音。


 俺は、ちゃんと分かってるから。

 俺たちは、違う世界の人間だって。


 俺はそう心で呟き、軽く笑い返した。

この作品を読んで頂きありがとうございます。


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