こんにちわ、そしてさようなら③
田村から「アラカミ」という単語を聞いた私は、一瞬固まる。
これは決して「アラカミ」を恐れてのことではなく、「アラカミ」の対処を知っていることからである。
「ああ、お前さん今「アラカミ」つったのか?」
わかりきったことだ、田村ははっきりと「アラカミ」と言っていた。
「はい、アラカミです。」
「田村、お前は人が死んでいて血だけだと言ったな?」
「はい、人が死んでいて血だらけです。」
「それは、アラガミの仕業か、それとも死体がアラカミなのか、どっちだ」
「死んでいるの老人です。体が真っ二つで回りは血だらけです。それにすごく臭いです。」
「アラガミは生きているのか?」
「はい、目の前にいます」
目の前にいるのに、呑気に私に電話をしてきているということは、今はおとなしくしているか、もしくは暴れない状態、おそらく拘束に成功しているということだろう。
しかし、念のため確認することにする。
「お前に危険はなんだな?」
「はい?どういう意味ですか?私に危険なんてありませんよ」
どうやら田村は「アラカミ」を脅威と感じてはいないようだ。
「なら、なんでお前はそんなに慌てふためいてるんだ」
「だから、死体があって血だらけで、それにアラカミが出たんです!」
「アラカミはお前に危害を加えそうなのか?」
「まさか、こう見えて私犬噛ですよ、こんなちんちくりんに殺られるわけないじゃないですか」
胸を張って鼻息を荒くしているであろことは、受話器ごしからでもわかる。
「少し落ち着いてきたか、最悪身の安全は確保できてるならなにも取り乱す必要はないんじゃねえか」
「そーですよねー確かにー河内さんの言う通りです」
少し落ち着いたのか田村はことの経緯を語りだす。
どうやら、昨晩は派出所勤務をしており明け方に犬噛から連絡があり、アラカミがでて大変なことになっていると連絡を受けたそうだ。
慌てて原付を飛ばして現場に急行してみると、そとに男が3人たっており、うち一人が通報者で事情を話してくれたそうだ。
通報してきたのは家主の親族にあたる若い男性で、なにやら夜中に空気の割れる音を聞き、誰かが回帰してしまったと音の方へ慌てて駆けつけてきたそうだ。
犬噛は回帰時に大きな咆哮をあげるが、音はそれほど遠くまでとどかなくても、空気の振動がかなり広範囲に渡る、それを犬噛たちは「空気が割れる」と形容しており、彼らはその空気の割れる音で犬噛の回帰を素早く察知することができる。
駆けつけると他にもう一人駆けつけており、どうするか思案していると家の中から悲鳴が聞こえたので家の中に押し入ると、あたりは血だらけでアラカミが家主夫婦に襲い掛かろうとしていたところだったという。
その後、家主と協力しアラカミを押さえつけて、あらかじめ消防団詰所に用意しておいた檻に閉じ込めて、手はず通り地域の代表者の田村に連絡を入れたのである。
そとで待っていた3人のうち一人が家主であったので、簡単な経緯を確認し、家主の案内で家の中にはいると、回帰したままのアラカミと血だらけの現場を目の当たりにした田村は混乱を極め、慌てて担当調整官の私に連絡を入れることにし、今にいったったようだ。
「いやぁー冷静になればなんてことないですよねー」
あれほど取り乱していた田村は今やしゃべる軽機関銃である。
「んなわけねえだろ!」
田村の豹変にもイラついていたが、それ以上に問題の本心から目を背けている田村の態度にも大いに腹が立った。
「お前はアラガミが出たてのに、連絡入れて終わりにしようってのかよ」
「いいか、よく聞けよ、アラカミの処分方法を決めたのはオイラたちじゃねーんだよ、お前たちそがそうすると決めたんじゃねえのか?」
田村は受話器の向こうで「ハッ」と息を飲み続けて
「河内さん、俺には出来そうもないですよ」
最後の方は声が震えていた。
犬噛の中に極々稀に思春期を待たずに回帰してしまう者がいる。
非常に気性が荒く、力もほかの者より強いため、荒ぶれた神が憑いた者として「荒神」と呼ばれ、彼らは自分たちで対処方法決めている。
2000年で確認されている事案は3件しかないが、その対処法は極めて単純である。
田村は震える声で続ける
「河内さん、聞こえていますか?ごめんなさい、俺には俺には」
「子供は殺せません」
泣きてえのはこっちだよ




