こんにちは、そしてさようなら①
昭和〇〇年 5月〇〇日 曇
昨日はつらい夜だった。
家内が布団にいなかった事が救いのようにも思えたし、彼女のぬくもりが欲しかったとも思えた。
5歳の倅のことが気になり、なかなか寝付けず少しばかり瞼が重たい。
家内は倅を心配し、倅の布団で床をとっていた。
食卓に着くと家内が食事の支度をせわしなくしている。
いつもの席に着き、食卓の上に置かれた新聞をとるか、それともテレビのリモコンに手を伸ばすか思案し、結局、テレビを見ることにしリモコンに手を伸ばしたところで、家内が声をかけてくる。
「おはようございます」
なにか言いたげなもの言いであったが、だいたい言いたいことはわかっていたので「ああ」と短く返事を返し、テレビをつけニュースを見ることにした。
テレビをつけるとニュースキャスターが抑揚なく「乗客に日本人はいませんでした」と、飛行機事故かなにかのニュースを伝え終えたところだった。
気まづい空気のなか、家内は恐る恐る切り出す
「・・・丈流さん、観事のことなんですけど」
「あいつは起きれないのか?」
家内の話が始まる前に倅の容態を確認するつもりだったが、軟弱者と言わんとばかりに言葉を投げかけてしまった。
「いえ・・・昨日は痛みがひどかったみたいですけど、先ほど部屋をのぞきにいったら置きてトイレに駆け込んでいたので、だいぶ良くなったかと」
それを聞き、私は鼻から息が思わずもれてしまった。
倅はどことなく軟弱なところがある。爪の1・2枚剥がれたぐらいで夜泣きをするなんて、私の義父だったら泣き止むまでこぶしを叩き込まれているところだったろうに。
「あいつを甘やかすな、痛みに耐えれないような軟弱な男になったどうするんだ」
彼女は少しばかり非難のまなざしをこちらに向けながら、意を決したのか
「あれはやめ・・・」と言いかけたところで、
「おかさん、ごはん!」と倅が元気よくどこからともなく駆け込んでくる
倅は私に気が付き右手でピースをしながら「おとうさんおはよう!」と手に巻いた包帯を私に見せびらかしてきた。
この子はきっと上手に巻けたつもりだったのだろうが、ミイラだって幾分ましと思える出来だ。
おそらく顔に出ていたのであろう、家内が慌てて「あんたなにやってるの」と言いながら、指を気遣いながら巻きなしていた。
倅は「へへ」と笑いながらもう一方の手で鼻をすすっていた。
私も倅の元気そうな姿をみれて思わず「へへ」と声がもれてしまう。
少し和らいだ空気ではあったが、「ジリリリ」と電話が鳴る。
黒い機体を震わせ、こちらをせかす。
朝の電話は嫌いだ。朗報がもたらされることはない。
ゆるんでしまった頬を手で拭い、心の中で「仕事か」とつぶやく。




