6. 陽光の言葉
6. 陽光の言葉
夜の王宮は、昼間の華やぎとは打って変わって静寂に包まれていた。広間の燭台はわずかに炎を揺らめかせ、玉座の影を長く伸ばす。廊下を歩く足音も、遠くの階段を上る音も、すべてが深い闇の中に溶けていった。
陽光は一人、王宮の屋上に立ち、星空を見上げていた。風は冷たく澄んでおり、火山の噴煙すら夜空に消えていく。王の肩にかかるマントは静かに揺れ、銀色の星光を受けて淡く輝いた。その瞳には、昼間の大広間で見せた威厳と違う、静かな決意の光が宿っていた。
「私は、55歳で死ぬはずだった男だ。」
その言葉は、王自身の胸の内を告白するかのように、低くつぶやかれた。かつての医師たちの予測、寿命の限界、そして自らの体の衰え……人としての限界を知る者が、今では千年先を見据えた国家設計者となっていた。短い人生に縛られず、未来を支える制度と文化を築き上げる王――その矛盾とも思える立場に、陽光自身が最も驚いていた。
彼の視線は、無数の星々に向けられている。星々は遠く離れた光を放ち、地上の時間とは無関係に瞬いている。王はその光を、自らの千年計画に重ねて見た。
「たとえ私がこの未来を直接見ることができなくとも……」
言葉は夜空に溶けるように途切れたが、続く思念は明確だった。科学は人の寿命を超え、世代を超えて積み重なる。王国の学者たちの努力、研究所での日々の探求、蓄積されるデータ――それらすべてが、やがて千年先の文明を形作る光となる。
「太陽は、我らの科学を照らし続ける。」
その言葉には、自らの存在がなくとも、国家の未来が輝き続けるという信念が込められていた。陽光は過去の自分と未来の自分を同時に抱え、王としての責務と、人間としての有限性を受け入れた。
王の目に、星々はもはや単なる天体ではなかった。それは、まだ見ぬ未来文明の姿を象徴していた。銀河の向こうに広がる知識の塔、宇宙都市の光、遠い惑星への探査船――すべてが、今日の基礎科学の探求の延長線上にある未来像として映る。
風が頬をかすめる。冷たく、静かで、しかし力強い夜風は、王にとって未来への確信の象徴でもあった。陽光はゆっくりと胸の中で息を整え、長い沈黙の後、再び口を開く。
「科学は人の命を超える。秩序と努力の積み重ねによって、未来は形作られる。私の目の届かぬ世界であっても、我らの理論と実験は生き続ける。」
王は星空を見上げながら、手にした天球儀にそっと触れた。球儀の上には、惑星や恒星の位置が正確に刻まれており、過去の観測者たちの努力の結晶が集約されている。王は、その光景に自らの未来設計を重ねた。研究者たちの努力は、太陽の光のように絶えず後世を照らし、国家を支え、文明を前進させる――そう確信していた。
夜は深まり、星々はますます輝きを増す。陽光はゆっくりと目を細め、静かに微笑んだ。人としての有限な時間と、千年先を見据える王としての無限の責務。二つの視線を同時に抱え、王は決意する。たとえその目で成果を見届けることができなくとも、王国の科学は途切れずに未来を切り開く――その信念こそが、千年計画の心臓であった。
その夜、山都谷火山王国の空には、無数の星々が静かに瞬き続けた。それは、王自身の未来への誓いであり、科学者たちの探求への光であり、そして千年の文明を見守る静かな導きの光でもあった。陽光の瞳に映る星々は、まだ見ぬ未来の文明の姿として、確かに輝いていた。




