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5. 王国の変貌




5. 王国の変貌


王の布告から数年の歳月が流れ、山都谷火山王国の風景は大きく変わっていた。広大な平原や丘陵、火山の麓にまで、規模と目的を兼ね備えた基礎科学研究所が建設されたのである。それぞれの研究所は専門分野ごとに特色を持ち、数学、物理、天文学、化学の原理を徹底的に探求する場として設計された。


研究所の建築は単なる機能性だけでなく、学者の創造力を刺激する美的要素も考慮されていた。天井は高く、光と風を十分に取り入れる設計。壁には古代の学問書や観測記録が並び、手作りの実験台や計算装置が随所に配置されている。各研究所の中庭には天文観測用の塔がそびえ、夜空に輝く星々を正確に測定する観測機器が備え付けられていた。


学者たちは日々、即金的な成果を求められることなく、ひたすら原理の解明に没頭できた。数学者は未知の数列や幾何学の理論を探究し、物理学者は自然の法則の解明に挑み、天文学者は星々の運行とその影響を精密に記録する。化学者は、応用の利益に惑わされず、元素や化合物の本質的性質の探求に集中した。その成果はすぐに市場に出ることはなかったが、王国の未来への蓄積として膨大に記録された。


古代のコンピュータやサーバーが研究所には配備され、研究データはデジタル化され、体系的に保存された。数学の計算結果、天体の観測データ、化学反応の実験記録――それらすべてがネットワークを通じて中央の国家データベースに集約され、次世代の学者へと引き継がれる。研究の過程で生まれた仮説や失敗の記録もすべて蓄積され、無駄のない知の体系が徐々に構築されていった。


王国は、やがて「未来のために働く学者の楽園」と呼ばれるようになった。学者たちは高い自由度を得ると同時に、国家の支援によって生活は安定し、研究に没頭できる環境が整えられていた。若い研究者は新しい理論を試すことを恐れず、先輩研究者から伝えられた知識を踏まえ、独自の発想で新たな理論を打ち立てた。


商人や民間の資金もまた、王の指導のもとで基礎科学支援に振り向けられた。応用化学の短期利益に目を奪われることなく、長期的な投資として科学の発展を支える。この流れは、国全体の文化として定着しつつあった。街では、学者と商人、技術者が対話を交わし、科学と経済が秩序ある形で共存する風景が日常となったのである。


やがてこの体制の成果は、王国の国力として現れ始める。単なる領土や軍事力ではなく、知識と科学技術の蓄積が国家の中心的価値となった。基礎科学の徹底した探求により、王国は長期的な安全と発展の礎を築き、千年後の世界を見据えた文明として着実に歩みを進めていた。


学者たちは誇りを胸に、今日も研究所の机に向かう。コンピュータの画面には無数の計算式が走り、観測装置は正確な星の位置を記録し、化学実験室では安定した環境下で新たな試料が分析される。彼らの探求の積み重ねは、目には見えぬが確実に国家の未来を支えていた。


王は王宮の高みから、各地の研究所を思い浮かべた。基礎科学の探求に生きる学者たちが国家の礎を築く姿は、まさに理想の光景であった。未来の王国は、今日の小さな研究の積み重ねによって支えられている――その確信が、王の胸に揺るぎなく刻まれたのである。


こうして、山都谷火山王国は基礎科学を国家の中心に据えるという前代未聞の政策により、世界に類を見ない科学文明の礎を築いた。科学者に自由を与え、秩序と財政の枠組みを整え、応用の誘惑を制御する――すべてが千年後の栄光を見据えた布石であった。王国は、未来のために働く学者の楽園として、その名を歴史に刻み始めたのである。



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