表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/183

3. 応用化学の禁止



3. 応用化学の禁止


大広間の静寂は、王の次の言葉を待ちわびるかのように張り詰めていた。学者たちはまだ、「基礎科学研究への国家保証」の興奮冷めやらぬ状態であった。しかし、その静寂を破ったのは、王の厳しい声であった。


「民間による応用化学研究への出資は禁ずる。違反した者は、財産を没収し、王国の研究財源に組み込む。」


広間に、鋭い冷気が走る。学者たちは息を呑み、互いに顔を見合わせた。応用化学――それは医薬品や新素材、爆薬や精密機械に至るまで、目に見える成果を生む分野である。商人や投資家が関心を持ち、即金的な利益を生むことから、民間での研究は活発だった。しかし、王はあえてその分野を制限したのだ。


老練な化学者は、手元の書類を握りしめたまま、眉をひそめる。応用化学の研究は、王国の技術力や経済を直接的に押し上げる可能性を持っている。しかし、王は短期的な利益よりも、千年後の国家の基盤を優先したのである。王の意図は明確だった。基礎科学を徹底的に発展させ、その蓄積に基づいて、未来の応用研究を安全かつ秩序立てて行う――そのために、民間の即効性ある応用研究は制限される必要があった。


若い化学者の中には、内心で葛藤する者もいた。「私の発明はすぐにでも人々の生活を変えられるはずなのに、それを試すことさえ許されないのか」と。しかし、王の視線は厳しくも揺るがぬ信念に満ちており、誰も逆らえるものはいなかった。


王はさらに説明を続けた。


「応用研究は誘惑である。民間による利益追求は、基礎科学の探求を歪め、秩序を乱す危険がある。我が国は、千年先を見据え、学問を国家の礎とする。そのためには、基礎科学に全力を注がねばならぬ。」


言葉は平易でありながら、重みと説得力を持って学者たちの胸に届いた。すぐに利益を生むものではなく、将来にわたる知の蓄積こそが、王国を真の中心たらしめる――その理念が明確に示された瞬間であった。


広間の空気は一層引き締まった。基礎科学と応用科学の境界線が明文化され、研究者たちの心に厳しい枠組みとして刻まれたのである。この禁止令は単なる法令ではなく、国家の未来を守るための知恵でもあった。応用研究による利益は、短期的には魅力的であろう。しかし、それに惑わされれば科学者は基礎科学の探求を忘れ、王国の千年計画は狂う。王はそれを防ぐため、断固たる姿勢を示したのだ。


学者たちは内心で覚悟を決めた。応用化学の誘惑を断ち、目の前の基礎科学に全力を注ぐこと――それが王国の未来を築く最初の義務である。ある若手化学者は、手元の器具を見つめながら、心の中で誓った。「すぐに成果が出せなくても、私は知を追求し続ける。王の信頼を裏切らないために。」


さらに王は、民間投資の規制の意義を補足した。


「民間の応用研究資金は、王国の科学財源に組み込まれる。この資金は、基礎科学研究のために再配分される。すべては千年後の評価のために、秩序ある科学国家を築く礎となる。」


その言葉に、学者たちは胸を打たれた。財源の流れが明確になり、無秩序な競争による科学の暴走は防がれる。研究者は秩序の中で自由に思考し、王国は長期的な投資として科学に全力を注ぐことができる。この制度により、科学は単なる道楽でも商業でもなく、国家運営の中枢として位置づけられた。


王の布告が終わると、広間には静かな熱気が漂った。学者たちは互いにうなずき合い、これまでにない使命感に包まれる。基礎科学の探求こそが、王国の未来を守る最も堅固な防壁であり、民間利益や即時成果に惑わされないことで、千年後の栄光への道筋が開ける――その理解が、全員の胸に刻まれた瞬間であった。


王の目には、広間の学者たちが思索に没頭する姿が映り、微かに微笑んだ。科学の自由は守られるが、秩序は決して乱させぬ。応用化学の禁止は厳格であるが、未来の国家を支える基礎を築くための、不可欠な方策であった。千年の計画は、この日から確かに動き始めたのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ