2. 研究者への保証
2. 研究者への保証
王の布告は、ただの理想や願望ではなかった。それは、科学者たちにとって前例のない保証を伴う革命的な宣言でもあった。大広間でその言葉を聞いた学者たちは、口を半開きにして、次に続く王の言葉に耳を傾けた。
「基礎科学に従事する者は、生活資金と潤沢な研究資金を国家が保証する。」
王の声は、玉座の高みから広間を包み込み、響いた。その瞬間、数百年にわたる学問者の不安、研究資金不足、生活の危機――すべてが霧のように消え去る感覚を覚えた者もいた。貧困ゆえに才能を封じられてきた若き天文学者や、器具不足に悩んできた化学者の心には、希望の光が差し込んだ。
しかし、王はさらに続けた。
「成果がなかったとしても、いかなる処罰も科さぬ。即金的な利益や即時成果は一切求めない。」
その言葉に、広間の空気は驚きと静寂で一瞬凝り固まった。学問において、失敗は許されぬもの、成果は金や地位と結びつくもの――という常識が覆された瞬間だった。王国は、千年後に科学者の真価を評価する。目先の結果ではなく、長期的な知の蓄積こそが尊ばれる――この思想は、誰もが聞いたことのない未来志向の契約であった。
老数学者は、静かに手を組み、深く息をついた。自分の生涯で取り組んできた未解決の問題が、もはや「無駄な時間」ではなく、国家の礎として未来に評価されるかもしれないと考えた。若い化学者は、試薬や器具が不足していた過去を思い浮かべ、ついに自らの研究に没頭できる日が来たと胸を躍らせた。
さらに王は、科学研究の秩序を保つための具体的な制度も示した。
「研究者には、週に一度、資金設計アドバイザーとの面談を義務化する。」
この規定は、単なる形式ではなかった。潤沢な資金が研究者の手元に渡ることは、同時に研究の暴走や無秩序を招く可能性がある。王国は財政を圧迫せず、かつ科学者が自由に研究できる仕組みを求めた。資金設計アドバイザーは、研究者の提案する実験計画や器材購入の妥当性を検討し、研究の進捗や予算の適正配分を確認する役割を持つ。
学者たちは面談という制度に、最初は多少の戸惑いを見せた。だが、王の説明は明確であった。面談は叱責や制裁の場ではなく、研究の方向性を整理し、国家財政と科学活動を調和させるための補助である、と。
王は微笑みながら玉座に戻ると、最後に言葉を締めくくった。
「我が国の科学は、無秩序な独創ではなく、秩序と信頼の上に成り立つ。財政と研究が結びつき、千年後の未来に真価を発揮するように。この保証と制度をもって、我は諸君に自由を与えん。」
広間には再び静寂が訪れた。しかし、前章の静寂とは異なる。今回は、安堵と希望、そして責任感が入り混じった、充実した静寂であった。学者たちは互いにうなずき合い、心の中で誓った。自らの研究が、単なる知識の積み重ねではなく、千年先の国家の礎になることを。
この制度により、王国の科学政策は初めて、理想と現実の両立を実現することとなった。資金は保障され、研究は自由であるが秩序は保たれる。成果は短期的に問われず、千年後の評価がすべて――この制度は、科学者にとって夢のような環境であり、国家にとっても持続可能な投資であった。
そして、学者たちは理解した。王の布告は単なる理念ではなく、国家としての明確な約束であり、科学に生きる者たちの安全網であることを。未来の評価を待つために、今この瞬間から研究は始まる。千年の計画は、今日この大広間から確かに動き始めたのだ。




