第18章 千年の科学政策 1. 王の布告
第18章 千年の科学政策
1. 王の布告
王宮の大広間は、昼の光に満ちていた。天井高く吊るされた水晶の燭台が、朝の陽光を反射して七色の光を放つ。大理石の床は磨き上げられ、歩を進めるたびに微かな響きを立てた。玉座に座する王は、王冠の縁に刻まれた古代文字が反射する光を受けて、まるで光そのものに支えられているかのように見えた。
その日、大広間には帝国内外から集められた学者たちがずらりと並んでいた。天文学者、数学者、化学者、医学者、そして地理学者。皆、長い旅を経てこの王宮に集い、王の顔を一瞥する。彼らの服装はそれぞれの学問領域を象徴しており、深い緑や青、紫に染め上げられた長衣は、学問に対する誇りと同時に、王に仕える忠誠の証でもあった。
王は玉座の背もたれにゆったりと腰を掛け、静かに学者たちを見渡す。その目は、ただ者ならぬ知恵と決意に満ちていた。沈黙の中、空気が少しずつ張り詰めていくのを、誰もが感じた。学者たちは互いに視線を交わす。何か重大な発表があることは、長年この国に仕えた者なら直感できた。
やがて王は口を開く。声は玉座の下の列まで届き、深い重みと響きを伴って広間に広がった。
「山都谷火山王国は、千年後において世界の中心たらんとする。」
その宣言に、一瞬、大広間が凍り付いた。学者たちの目が一斉に大きく見開かれる。王の言葉には単なる誇張や比喩ではない、具体的な意思と覚悟が込められていた。世界の中心――それは、領土や富、軍事力では決して成し得ない目標であった。
王は間を置かずに続ける。
「そのために必要なのは、軍事でも交易でもない――基礎科学だ。」
その瞬間、広間の空気はさらに変化した。軍事や商業といった現実的で即効性のある手段ではなく、未来の世界を形作る科学の礎を国の政策の中核に据える――その理念は、当時の人々の常識を超えていた。学者たちは互いに顔を見合わせ、驚きと興奮が交錯するのを感じた。
王は深く息をつき、玉座に背を預ける。言葉は続く。
「我は布告する。今日より基礎科学研究を国家の礎とする!」
その布告に、広間は静寂に包まれた後、静かにざわめき始める。学者たちの中には、興奮のあまり声を漏らす者もいれば、目を細めて思索にふける者もいた。これは単なる研究奨励の命令ではない。王は国家の方向性そのものを科学に委ねたのだ。
ある老数学者は、かつて数理の法則に没頭してきた日々を思い出していた。幾何学の証明、方程式の解法、観測記録の整理――そのすべてが、今日から国家の基盤に組み込まれるという重みを理解した瞬間、胸の奥に静かな誇りが湧き上がる。若い化学者は、王の布告を聞いて、自分の試験管と薬品が未来の王国を支える礎になるかもしれないという希望に目を輝かせた。
王は立ち上がると、玉座の階段を一歩ずつ降り、学者たちに近づいた。その姿は威厳に満ちつつも、どこか親しみやすい温かさを帯びていた。
「我が民よ、学者よ、聞け。今日より、君たちの知恵と探求は、ただ個人の名誉や趣味のためではない。国家の未来、千年の栄光のためにある。すべての学問は尊く、軽んじてはならぬ。」
学者たちは自然と背筋を伸ばす。王の眼差しが、一人一人の胸の奥に直接語りかけるようだった。科学の道は容易ではない。失敗と挫折の連続であり、時には国の存亡に関わる判断を迫られるだろう。それでも、王の言葉には疑う余地のない信念が込められていた。
「さあ、諸君。我らが山都谷火山王国の未来は、君たちの手にかかっている。千年後、世界が我が国を中心に回るその日まで、科学の探求を怠るな。国家は全力を挙げて支援しよう。」
広間に再び沈黙が訪れた。その静寂は、ただの無音ではない。未来への期待、使命感、そして未知への興奮が混じり合った、重くも輝かしい静寂であった。学者たちは互いに視線を交わし、心の中で誓った。この布告を、単なる言葉として終わらせてはならない。国家の礎として、千年後の栄光を築くために、科学の炎を燃やし続けると。
その日、王宮の大広間には、歴史に刻まれるべき新たな政策の兆しが確かに生まれた。学問はもはや、個人の遊びではなく、国の命運を握る力となったのである。玉座の王の瞳には、未来の科学都市と飛躍する文明の姿が映っていた。広間の光景は、静かにではあるが確実に、千年の科学国家への第一歩を刻みつけていた。




