5. 陽光の独白
5. 陽光の独白
夜。
王宮の地下室は静寂に包まれていた。壁に反射する古代PCの青白い光だけが、暗闇にわずかな陰影を落とす。微かな電気音が耳に残り、まるで未来そのものがささやきかけているかのようだった。
陽光は再び、古代PCの前に座る。手のひらで冷たい机の縁を感じながら、彼は画面に映る未来の断片を静かに眺めた。三年後、五年後、七年後――映像は淡々と、しかし鮮明に彼の視界を埋め尽くす。赤や青、黄、灰色の光が交錯し、人々の感情と出来事の因果関係を描く。
「未来を知れば、恐怖も喜びも意味を変える」
陽光は低くつぶやく。その言葉には、自分自身への覚悟と、同時に冷徹な孤独感が混じっていた。未来の断片を知ることは、民衆の生活を守るための武器である。しかしそれは、王自身の心を縛る鎖でもあった。
彼は思う。
予測された暴動、聖戦、裏切り――すべてを先回りし、調整し、制御することは可能だ。しかし、完全ではない。古代PCが示す未来は、あくまで「予測」であり、絶対ではない。どれほど策を講じても、予測外の異常値が現れれば、王国の安定は一瞬で崩れかねない。
「私はこれから、全てを先回りし続ける王になる……」
陽光は指先をモニターの光にかざす。その光は暖かくもあり、冷たくもある。未来の可能性が指先で震え、まるで生き物のように形を変える。彼はその光の揺れを読み取り、民を守る道を探す。しかし、胸の奥にある不安は消えない。
「だが……“予測外の異常値”が現れたとき、王国はどうなる?」
その問いは、画面の中には存在しない。数値化も、シミュレーションもされていない。しかし、王としての責任感は、彼の胸に重くのしかかる。人々の命、国の未来――すべては自分の手の中にある。だが、未来は無限の枝を持つ樹木のように複雑で、予測できない動きもある。
陽光は目を閉じる。夜の静寂の中で、自らの心と向き合う瞬間だ。王としての誇り、民を守る使命感、そして避けられない恐怖――それらが混ざり合い、胸を締め付ける。
「もし、全てを掌握できると思ったとき、唯一の失敗は……自分の判断ミスか、それとも予測外の事象か」
彼の声は地下室に低く響く。過去の決断、未来の断片、古代PCの光――それらすべてが、今の彼の孤独な思索を照らしていた。
王としての道は、ただ民を導くことだけではない。未来を知り、制御する力を持ちながらも、決して油断できない責務がある。どれほど準備を重ねても、偶然や異常値は常に存在する。その恐怖と隣り合わせに立ちながら、陽光は決断し続けなければならない。
「私は……王として、民の未来を守る。しかし、私自身の未来は、誰も保証してくれない」
小さなため息とともに、彼は視線を再びモニターに戻す。光の川は絶えず変化し、未来の枝分かれは無限に広がる。目に映るのは、可能性の海。赤、青、黄、灰――感情の色彩が揺れ、未来の断片が次々と形を変えていく。
胸の奥に、消えぬ不安が灯った。しかし同時に、微かに燃える決意もあった。王としての責務は重い。だが、未来を読む力を持つ限り、彼には民を守る希望もある。予測外の異常値が現れたとき、王国はどうなるか――答えはまだない。しかし、王としての歩みは止まらない。
陽光は深呼吸をひとつし、静かに呟いた。
「未来がどう転ぼうと、私は立ち向かう。民のために、王国のために……」
古代PCの光は、夜の闇を照らし続ける。その光の中で、未来を読み、民を守ろうとする王の姿は、孤独でありながらも、確かな覚悟に満ちていた。未来はまだ不確定。しかし、王としての歩みは、この夜も確実に進んでいるのだ。




