「公開討議」
ある日、王宮の重厚な評議の間には、いつになく緊張した空気が漂っていた。玉座の間とは別の広間に重臣たちが集い、議題は王国の今後の方向性と王位の正当性についてであった。外から差し込む陽光が石の床に反射し、室内の重苦しい空気を照らす。民衆の目からは見えない、王宮内部の真剣勝負の場である。
老臣たちは、陽光の即位に不満を抱き、密かに不満を募らせていた。城内の陰謀と派閥抗争は日々巧妙さを増し、王宮の秩序を揺るがす可能性があった。その中で、一人の老臣がついに声を張り上げる。
「陛下! 第一王子を幽閉したのは不当でございます! 我らは先王の御遺志を尊重し、正統な継承をすべきではありませんか!」
その声は、広間の静寂を切り裂くように響いた。重臣たちの間にはざわめきが走り、密かに潜む不満が一気に表面化する瞬間だった。老臣は玉座の前で胸を張り、強い正義感と自らの権威を振りかざすようにして陽光に迫る。
しかし陽光はあえて微笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。その姿は穏やかに見えるが、目には冷静さと圧倒的な力強さが宿っている。重臣たちは無意識のうちに身を縮め、発せられる言葉の重みに心を引き寄せられる。
「正統とは何か? 血か? 名か? それとも力か?」
陽光の声は柔らかくも鋭く、評議の間に静かに響き渡る。老臣は言葉に詰まる。血統や先王の名を盾に主張しても、実際の統治力を問われれば答えに窮することは明らかだった。陽光の問いは単なる反論ではなく、王としての資質と国を守る覚悟を問う戦略的な挑発だった。
「第一王子は自ら療養を望んだ。弟は王位を望まぬ。ならば誰がこの国を導く? 答えよ、老臣」
言葉は低く、しかし広間全体に張り巡らされるように響く。老臣は口を開こうとするが、頭の中で理論と現実のギャップが絡まり、思考が停止する。王としての合理的判断と、派閥や血統の理論の間に立たされ、老臣は答えを見つけられない。
沈黙が広間を支配する。微かな息遣いと衣擦れの音だけが、空間に反響していた。陽光は静かに視線を巡らせる。重臣たちの顔を一つ一つ見渡し、その目に映る迷いや疑念、恐怖や従順の度合いを瞬時に分析する。まるで前世のサラリーマン時代に、会議室で部下や同僚の心理を読み取っていた感覚と同じである。
「ならば問う。貴殿らは、この国を守る気概があるのか?」
言葉は力強く、真実味と威圧感を兼ね備えていた。老臣たちの心は凍りつき、誰も声を発することができない。彼の問いは単なる言葉ではなく、王としての権威を形作る試金石であり、重臣たちの忠誠心を露わにさせる仕掛けであった。
一人また一人と視線が伏せられる。言葉に詰まった老臣の表情には、次第に屈服と理解が入り混じる。王宮内で何十年も権力を握ってきた者たちも、今この場では完全に陽光の掌の上にあった。彼の存在は単に威圧的なだけでなく、理にかなった説得力をもって、反論の余地を封じ込めるものだった。
「王とは民と国を守る存在であり、ただ血統に縛られるものではない」
陽光は心の中で静かに宣言する。第一王子の幽閉、第二王子の不関心、そして重臣たちの不満──すべてを把握した上で、彼は合理的かつ威厳をもって王として振る舞う。公開討議という舞台を、彼は権威の再確立と王位正当化のための戦略的場としたのだ。
評議の間に沈黙が続く中、陽光は微かに笑みを浮かべる。それは決して喜びの笑みではなく、計算し尽くした勝利を静かに確認する笑みである。重臣たちは言葉を発せず、民や王宮の秩序を守るべき立場として従うしかない。
この瞬間、王宮内の力のバランスは完全に変化した。公開討議の場で、王としての威厳を示すことに成功した陽光は、民や重臣の目に、疑いようのない統治者として刻まれたのである。王としての権威、合理的判断、そして冷静な心理掌握──これらが一体となり、王宮の秩序を再構築する基盤が形成された。
討議が終わった後も、広間に残る静寂は長く、誰もが言葉を発することをためらった。陽光は玉座に戻り、再び王としての姿勢を整える。その目は鋭く光り、王宮内の陰謀も不満分子の動きも、すべて彼の計算の内にあることを示していた。
こうして、公開討議という形での王位正当化は、陽光の圧倒的な存在感と戦略的言葉によって完遂された。王宮内の秩序は表面上安定し、民衆や重臣たちには、理にかなった統治者としての王の姿が確立されることとなった。
王としての神田陽光の真価は、こうして初めて公式に示されたのである。玉座の上で微笑む彼の眼差しは、これから始まる内政改革と王宮内の策略をすべて見据えていた。