3. 王の使い道
3. 王の使い道
陽光は分身リーマンとスパイたちを王宮の戦略室に召集した。室内は薄暗く、壁に設置された古代PCのスクリーンが青白く光を放っていた。光の反射が、部屋に集まった者たちの顔を冷たく照らす。
「諸君」
陽光の声が低く響く。その低音は部屋の空気を緊張させ、ただの報告会ではなく、戦略の決行前の戦場であることを告げていた。
「未来の断片から、三つの重大な事象が浮かび上がった。これを放置すれば、王国は混乱に陥る」
モニターには過去に古代PCが映し出した未来の映像が薄く残像のように浮かぶ。三年後の飢饉、五年後の聖戦、七年後の裏切りの諸侯。どの映像も、赤や青、黄の色彩が躍動し、人々の感情の振幅を映し出していた。
「まず、予測された暴動の火種だ」陽光は指を伸ばし、古代PCの光に触れながら説明する。「隣国の食糧不足によって起きる飢饉は、未然に防げる。交易網の調整と、緊急食糧支援を行えば、民衆の怒りは沈静化する」
分身リーマンは即座に頷く。「了解です、陛下。食糧支援のルートは既に確認済みです。各地域の物流網に指示を出します」
陽光はさらに目を細め、次の課題に進む。「次に、宗教対立だ。既成宗教の指導者が聖戦を布告する未来が見えている。彼らを外から排除することは不可能だ。だが、内側からなら……」
スパイの一人がわずかに息を呑む。陽光はその反応を見逃さず、冷静に続けた。「諜報部を派遣し、内部から策略を仕掛ける。指導者の支持基盤を揺るがせ、民衆の信頼を分散させる。聖戦は未然に阻止できる」
室内の空気は一段と張り詰める。スパイたちは視線を合わせ、互いに微かに頷く。陽光の声は決して強くはないが、彼らの中に計画を即座に実行させる強烈な威厳があった。
「そして最後に、裏切りの諸侯だ」
陽光は一歩前に出る。机に手を置き、部屋の者たちを見渡す。「彼らは野心を抱き、王国内部で混乱を招く。だが、ここで焦って罰を与えれば、状況は悪化する。逆に、昇進させ、表向きの権力を与えることで、彼らの行動範囲を制限し、身動きを封じる」
分身リーマンが驚きを隠せない。「陛下、それは一種の…心理戦ですか?」
陽光は静かに頷く。「心理戦でもあり、策略でもある。未来の断片を知る者として、我々は先手を打つ権利と責任がある。彼らの野心を逆手に取り、王国の安定を守るのだ」
スパイたちは一斉に「了解!」と頭を下げる。その声は一糸乱れず、決意と忠誠を示していた。陽光は目を閉じ、胸の奥で微かな熱を感じる。未来の断片は冷酷だ。だが、彼の指示でその冷酷さを和らげ、人々の命を守ることができる。
「覚えておけ」陽光は低く、しかし力強く言った。「我々の役目は、ただ指示を実行することではない。未来を導くことだ。間違えれば民衆は苦しみ、王国は崩壊する。しかし成功すれば、無数の命を救い、王国を安定させることができる」
部屋の空気は一瞬、静まり返る。誰もがその重みを噛み締めた。古代PCの光が床や壁に反射し、青白く揺れる。それは、未来を映す灯火であり、同時に警告でもあった。
分身リーマンが声を張った。「陛下、直ちに行動を開始します!」
スパイたちも続けて立ち上がる。指示の伝達、諜報活動、食糧の手配――すべてが即座に動き出す。王宮地下の戦略室は、まるで巨大な神経中枢のように機能し始めた。
陽光は深呼吸をひとつして、古代PCのスクリーンを見つめる。未来の断片は、まだ完全には整っていない。しかし、今動くことで、未来の枝分かれは大きく変わる。未来を読む者としての責務が、ここにある。
「すべては私たちの手の中にある……」
そう呟き、彼は冷静に指示を出し続けた。光の中で、王としての覚悟が、戦略家としての洞察が、静かに、しかし確実に磨かれていく。
未来はまだ不確定だ。しかし、陽光は知っていた。適切な行動を積み重ねれば、冷酷な断片も、希望に変えることができると。
部屋の中に緊張と静寂が同時に流れ、スパイたちは一歩ずつ未来の調整に動き出す。王の使い道は、ただ命令を下すことではない。未来の断片を読み取り、形作り、導くこと――それが、王としての最大の使命であった。




