2. 未来の断片
2. 未来の断片
古代PCは淡々と映像を映し出す。
その光景は、まるで映画のように連続して現れるわけではなかった。断片的で、不規則な映像が次々に飛び出す。だが、どの瞬間も意味を持っていた。陽光はモニターに釘付けになった。
三年後――。
交易網の拡張により、隣国の農地が過剰に開発され、土地は痩せ、収穫は激減する。飢饉が発生し、人々の怒りが爆発する。暴動は都市を覆い、炎が夜空を赤く染めた。モニターの映像では、人々の顔が苦悶に歪み、子どもたちは涙を流し、兵士たちは秩序を守るために剣を振るう。陽光の胸は締め付けられた。未来の現実が、あまりに生々しかったからだ。
「これを……防ぐには、交易網の拡張をどこで制御すれば……」
彼はつぶやく。古代PCは、単なる予言ではなく、原因と結果の連鎖を示していた。行動を一つ変えることで、悲劇の結末も変わる可能性があるということだ。
五年後――。
宗教対立が激化する。既成宗教が聖戦を布告し、民衆は二つの陣営に分かれる。信仰心がもたらす熱狂と憎悪は、理性を覆い隠す。街は戦火に包まれ、神殿の鐘が不気味に鳴り響く。古代PCは、人々の感情の温度まで可視化していた。赤く震える線が、憎悪と恐怖の高まりを示し、青い線はわずかな希望を示す。だがその希望も、ほとんどの場所では消えかけていた。
七年後――。
王国の内部から“裏切りの諸侯”が現れる。忠誠を誓った者たちの心の揺らぎ、野心、嫉妬が次々に表面化し、王宮の陰で陰謀が渦巻く。モニターには諸侯たちの動向が映され、陽光は彼らの微細な表情の変化から裏切りの兆候を読み取る。ここでも、古代PCは単なる映像以上のものを示していた。人間の心の複雑さが、未来を揺るがす根源であることを示していたのだ。
陽光は目を細めた。光の川の中で、未来の断片が結びつき、ひとつの大きな絵図を形作り始めている。彼は心の中で整理する。
「つまり、これらを事前に“調整”すれば、すべて避けられるというわけか」
その瞬間、胸に高揚感と恐怖が同時に押し寄せた。未来を知ることができる力、そしてそれを変える責任――両方を背負うことになる。もし失敗すれば、悲劇は避けられず、人々の苦しみは現実となる。だが、成功すれば、無数の命を救い、王国を守ることもできる。
陽光は手を顎に当て、考え込む。古代PCの映像は冷酷だ。何の感情も持たず、淡々と因果関係を示すだけ。だが、その冷徹さが、逆に決断の重さを増幅させる。画面の中の赤や青、黄、灰色の光は、まるで彼の心を映す鏡のようだった。
「すべての可能性を掌握する……いや、まずは最も危険なものから対処すべきだ」
彼は低くつぶやいた。未来は無限の枝を持つ樹木のように複雑で、一つの行動が他の結果に波及する。古代PCはその枝をすべて可視化してみせる。陽光は、その中から最も優先すべき分岐を見極めなければならなかった。
側近が恐る恐る尋ねた。
「陛下……これを操作すれば、本当に人々の未来を変えられるのでしょうか」
陽光は静かに振り返る。目には決意と緊張が混じり、彼の手はわずかに震えていた。
「操作ではない……調整だ。未来を導くんだ」
画面の光が一瞬強く輝き、未来の断片はさらに鮮明になる。人々の笑顔、涙、怒り、愛情――それらすべてが、指先一つで微かに揺れる。陽光はその揺れを感じ取りながら、自らの王としての役割を再確認する。未来は冷酷でもあり、希望に満ちてもいる。それをどう導くかは、今この瞬間の彼の決断にかかっていた。
光の海の中で、陽光の瞳は静かに輝き、王として、そして未来を読む者としての覚悟を固めた。




