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第17章 未来を読む王 1. 決断



第17章 未来を読む王


1. 決断


古代PCの前で、陽光は指を静かに伸ばした。キーボードの冷たい感触が指先を伝わり、微かに震える感覚が残る。目の前には無数の選択肢が並んでいたが、どれを押すべきか迷いはなかった。迷いは既に消え、残るのは決断の瞬間だけだった。


「これで……いい」


指先が一つのボタンに触れる。瞬間、低くうなるような電子音が鳴り、画面が白く輝き始めた。


【予測モード 起動】


モニターに光が広がり、無数の点が線となり、線が網の目のように絡み合った。幾千もの感情データが走馬灯のように流れる。笑い、怒り、恐怖、愛情――すべてが数値化され、時間軸の中で未来を描いていた。


「これが……人々の未来か」


陽光は息を呑む。目に映るのは単なる数列やグラフではなかった。人々の心の揺れ、選択の結果、時には予期せぬ偶然の連鎖が一瞬の光となり、時間の波に刻まれていく様子だった。画面上の色彩は人間の感情の温度を示す。赤は激情、青は冷静、黄は希望、灰色は失望――感情は可視化され、未来を予感させる輝きとして跳ねた。


陽光の心は静かに揺れた。画面の奥底で、まだ誰も見たことのない未来が展開されている。そこには喜びも悲しみも、成功も失敗も、ありとあらゆる可能性が網羅されていた。


だが、その未来は完全ではない。

それは確率の集合であり、決して絶対の予言ではなかった。選択肢を一つ押した瞬間、数多の可能性の中から枝分かれが生まれ、未来は常に変化し続ける。


陽光はゆっくりと画面に手をかざした。まるで触れれば未来の一部を掴めるかのような気がした。しかし、現実はそう簡単ではない。未来は指先の選択だけで変わるものではなく、そこに生きる人々の意思、偶然、そして時には不可解な運命の意志が絡み合って動くものだった。


「選ぶべき道は……一つなのか、それとも……」


画面には光の川のように、無数の未来が交差し、消え、また現れる。中には希望に満ちた未来もあれば、暗黒に覆われた未来もある。ある街の子どもたちの笑顔、ある政治家の決断、戦争の火種、愛の芽生え――すべてが瞬間的に表示され、陽光の目を釘付けにした。


彼は知っていた。ここでの選択が、人々の生き方に大きな影響を与えることを。だが同時に、未来は決して固定されていない。人は予測されてもなお、自らの意思で道を切り開く存在なのだ。だからこそ、この古代PCの予測は、道標であり、警告であり、挑戦でもあった。


陽光は指を画面に沿わせ、予測された未来の一つを選ぶか迷った。光の川はその迷いを映すかのように、流れを変え、複雑な色彩を帯びた。赤と青、黄と灰――それらは衝突し、融合し、常に新しい形を作り出す。彼は息を整え、目を閉じた。心の中で自らに問いかける。


「もし、この道を進めば……誰が笑い、誰が泣くのか」


目を開けると、画面はより鮮明に未来を描き出していた。そこに映るのは、まだ誰も経験していない世界の断片だった。都市は空に向かって伸び、地上では人々が忙しなく行き交う。科学は飛躍し、文化は新たな局面を迎える。しかし同時に、争いも災害も、予測の中に色濃く残っている。


「完璧な未来など存在しない……」陽光は呟く。


それでも彼は決断を下さなければならなかった。未来を知ることができても、行動しなければ、変化は訪れない。指先が再びボタンに触れる。小さな衝撃が手のひらに伝わる。画面は一瞬、静寂に包まれた。


そして光が一段と明るくなる。数千の感情データが渦巻き、未来の地図を描き出す。陽光はその中心に立ち、王のように見下ろした。決断の重みが肩にのしかかるが、同時に未来を導く力を手にした歓びも感じる。


「人々の未来……俺が導くのか」


光の川は徐々に収束し、一つの道筋を示した。完全ではないが、最も可能性の高い未来。それは希望に満ちつつも、試練に満ちた道だった。陽光はその道を胸に刻み、静かに息を吐いた。


決断は、ここで終わりではなく、むしろ始まりだった。未来を知った者として、王として、彼は歩み出すしかない。指先の小さな衝撃が、世界を動かす大きな一歩となったのだ。




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