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4. 王の葛藤



4. 王の葛藤


地下室の青白い光の中、陽光は玉座のように設置された観測席に腰を下ろした。古代PCのモニターには、三つの選択肢が依然として浮かび上がり、無数の民衆の感情データが脈打つように波打っている。怒り、嫉妬、恐怖、快楽、絶望――すべてが数値化され、未来のシナリオを作り出すパラメータとして提示されていた。


陽光は深く息をつき、冷静に、しかし内心では激しい葛藤が渦巻いていた。


「制御すれば、完全な秩序が得られる……だが民は人形となる」


彼は目を閉じ、未来の光景を想像した。市場も農村も軍も、すべてが完璧に秩序立つ。しかし民衆は自ら考えず、感じず、光の規範に従うだけの存在となる。怒りや恐怖、嫉妬の波は消え、秩序は保たれるが、自由意思は完全に奪われる。光の下の静謐な世界。だが、それは生きた人間の社会と言えるのか。王の心は、秩序の確保と民の自由の喪失という二律背反に引き裂かれた。


「予測に頼れば、異常事態に王国は脆くなる」


次に、予測モードを思い浮かべる。民衆の心の波を完全にモデル化し、未来の動きを先読みすることで、戦争や暴動、宗教対立を回避できる。しかし、未知の異常値や予測不能な変数が生じた場合、統治は一瞬で崩壊する。光の秩序は手に入るが、常に危険と隣り合わせだ。王は自らの計算と観察力を駆使しても、完全な安全は保証されない。安定は得られるかもしれないが、それは賭けであり、運命の海に船を浮かべるようなものだった。


「融合すれば……私は人の心を抱えきれず、狂うかもしれん」


最後に融合モード。民衆の感情を王自身が直接感じ取り、未来を操作できる。しかし、それは王自身の精神を危険に晒すことを意味する。怒りや恐怖、嫉妬、絶望の波が直接王の心に流れ込み、精神の均衡を崩せば、国家統治そのものが危機に陥る。究極の統制力と、究極のリスク。力と恐怖は表裏一体であり、王の魂は光と影の両方に耐えねばならなかった。


王の背後で、分身スパイたちが静かに待つ。呼吸すら聞こえない。

「陛下、この選択は国家の未来そのものです」


陽光はゆっくりと振り返り、彼らの視線を受け止める。民衆の生活、経済、軍事、宗教――すべてはこの瞬間の決断に依存している。彼の一手が、王国の秩序を決定し、民の運命を定める。怒りも恐怖も嫉妬も、すべて光の秩序の中で操作されるか、あるいは予測不能な波に翻弄されるか。


陽光は手をモニターにかざし、青白い光に触れる。データの波は冷たく、美しく、しかし同時に残酷だった。民衆の感情の波を直接掌握すること――それは神のような力であり、同時に人としての理性を超える試練でもある。


「光は秩序を与える……だが代償は大きい」

「未来を予測すれば、安定の保証はない……しかし自由は残る」

「自らを賭ければ、統制は最大……だが私は破滅するかもしれぬ」


地下室の光が揺れ、古代PCの低い唸りが響く。王は瞳を閉じ、心の中で計算を重ねた。感情、秩序、自由、力――すべての価値を天秤にかける。選択は、単なる手段ではない。国家の未来、民衆の魂、王自身の命運までを左右する決断である。


陽光はゆっくりと指先をモニターに近づける。三つの道が、光の中で静かに揺れている。民衆の怒りも恐怖も嫉妬も快楽も絶望も、すべて光の秩序に収束するか、あるいは未来の波に翻弄されるか。選択の瞬間は、ついに訪れたのだ。


王の呼吸が地下室の静寂に溶ける。彼の目に浮かぶ光は冷たく、しかし確かな意志に満ちていた。国家の秩序と民衆の未来、そして自身の魂――すべてを賭ける決断は、今、光の下で行われようとしていた。



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