2. シミュレーションの提示
2. シミュレーションの提示
古代PCは、稼働音を低く唸らせながら、次々と解析結果を提示した。モニターには、膨大な監視データを元に生成されたグラフや波形、行動シナリオが次々に映し出される。
【膨大な監視データを基に、民衆の感情行動を完全再現可能】
【未来予測:戦争、暴動、叛乱、宗教対立を事前にシミュレートし回避可】
表示は簡潔だが、その意味は壮絶であった。古代PCは、過去の観察データだけでなく、未来の出来事までをシミュレーションし、民衆の感情の変化に基づく社会の動きを完全に再現できるというのだ。市場の騒動、戦場での兵士の反応、農民の不安、諸侯の権力争い、宗教的対立――あらゆる可能性が数値として描き出され、王はそれを一目で理解できる。
陽光は思わず息を飲んだ。
「……人の心すら、未来予測のパラメータに変わるのか」
今まで、感情の制御は民衆の行動を秩序づける手段だった。しかしこの次元の解析では、民衆の心そのものが予測可能な変数となる。怒りや恐怖、嫉妬、快楽や絶望の波形が、未来の事件や社会変動の発火点として数値化される。民衆の感情はもはや、偶然や運命ではなく、王の意思で先読み可能なパラメータになったのだ。
側近が震える声で問う。
「陛下……これは、もはや制御を超えた力では……?」
陽光は微笑みながら、画面に映る未来シナリオを眺めた。シミュレーションは無数の枝分かれを持つ木のように展開されており、戦争の勃発、暴動や反乱の発生、宗教間の対立がすべて事前に可視化される。枝の末端には、事態が収束するパターンと、破綻するパターンの両方が示されていた。
「制御を超えた力……いや、これは単なる道具だ。道具を使う者の思考次第で、運命は支配可能になる」
王は指をモニターに軽く触れ、特定のシナリオを選択する。瞬時に、その未来の展開が画面上で再生され、民衆や軍隊、諸侯の行動が仮想空間で再現される。怒りの連鎖が市場で暴動に発展するパターン、恐怖の波が兵士の士気を崩すパターン、嫉妬と権力欲が諸侯間の抗争を生むパターン――すべてが数値化され、色分けされた波形で可視化される。
陽光は静かに頷き、満足そうに微笑んだ。
「これで、予測不能と思われた未来さえ、光の秩序の下に置くことができる」
古代PCの演算は止まることを知らず、分身スパイやアンドロイド兵から送られるリアルタイムのデータを次々に吸収し、未来の予測モデルを更新していく。民衆の怒りの傾向、恐怖の連鎖、嫉妬の拡散、絶望の伝播――すべてが数値化され、王の意図する秩序に組み込まれる。
「なるほど……光の統治はここまで進化したのか」
王は低く呟き、玉座の背もたれに深く寄りかかる。感情制御だけでなく、未来予測の力まで手に入れることで、王国の統治はほぼ完全なものとなった。民衆の行動、戦場の秩序、経済の安定、諸侯の欲望――すべては光の下で設計可能なものとなったのだ。
モニターの光が古代PC全体に反射し、地下室は淡い青白い光に包まれる。その光の中で、未来の社会はすでに仮想空間に構築されつつある。陽光は微笑み、冷徹な確信を抱く。
「人の心すら、未来予測のパラメータに変わる……光は、ついに時間さえも統制可能なものになったのだな」
古代PCは低く唸り、膨大なデータの海をかき混ぜながら、未来社会の地図を王に提示し続けた。陽光は、その地図を胸に刻むように見つめ、次なる統治の方策を練り始めた。人々の感情も行動も、すべて光の秩序の中で予測可能となる瞬間。王国は、ついに完全なる統御の段階へと歩みを進めたのである。
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