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3. 社会への影響


3. 社会への影響


新経典の布告から数ヶ月。山都谷教の「感情的行動全般対応マニュアル」は、民衆の生活指針として急速に浸透していた。市場、村落、都市、軍事拠点――あらゆる場所で、民衆は無意識のうちに光の教えに従うようになっている。


市場では、以前なら日々の交渉や利害の衝突で怒号や暴力沙汰が絶えなかったが、今ではそのような光景はほとんど見られなくなった。商人たちは怒りを覚えたとき、深呼吸し太陽に祈る。焦燥や苛立ちは祈りの中で浄化され、冷静な判断と誠実な取引が促される。争いは減り、市場の秩序が自然に維持され、経済活動の効率は飛躍的に向上した。


戦場でも変化が生じた。兵士たちは恐怖を感じた瞬間、太陽の昇る光を思い浮かべ、呼吸を整える。死への恐怖や戦意の揺らぎは光の祈りによって制御され、部隊はより秩序正しく、組織的に戦うことができるようになった。以前なら動揺や混乱で敗北していた小規模の戦闘も、冷静さと統率力の向上により、勝利率が大きく改善された。


農村では、民衆の不安や絶望が信仰に置き換えられることで、反乱や暴動の発生が激減した。干ばつや天候不順に直面しても、農民は太陽神の光に祈り、自らの行動を規律に従って調整する。光の秩序のもとで労働や協力が円滑に行われ、食料生産の安定性も向上した。


諸侯ですら、欲望や私利私欲を抑える口実として「太陽の教え」を利用するようになった。かつては争いや陰謀の材料となった嫉妬や猜疑心も、光の教義によって制御される。権力者自身が自らの感情を管理し、秩序と利益の最大化に従うことが常態化したのである。


王座に座る陽光は、広間の窓から市街地や城下町の活動を冷静に観察した。市場での秩序、兵士の整然とした行軍、農民の安定した生活、諸侯の自己抑制――すべてが「感情を抑えることで秩序と利益が最大化する」という彼の意図通りに動いている。


「光の下では、人の心も社会も、理想的に整列する」

陽光は静かに呟き、玉座の背もたれに深く寄りかかった。感情の制御は単なる心理学や信仰の範囲に留まらず、社会全体の秩序維持と経済活動の最適化に直結していた。


分身スパイやアンドロイド兵からの報告も、日々のデータとして王の前に集まる。怒りの頻度、恐怖による行動の変化、嫉妬や快楽の影響……それらはすべて可視化され、社会運営の指標となる。陽光は、これらの情報を分析し、必要に応じて新たな指示や教義の修正を行った。


民衆の心が太陽の光の下で秩序づけられ、社会が円滑に機能する一方で、王はその統制力を慎重に保持していた。感情の制御は信仰として自発的に受け入れられるため、強制や暴力による統制ではない。民は光を信じ、自らの意思で行動を調整する。その結果、王は見えざる手のように、社会の秩序と経済の効率を操ることができるのである。


こうして山都谷教の新経典は、民衆の心を支配するだけでなく、社会構造そのものに影響を与え始めた。市場も戦場も農村も、光の秩序のもとで整列し、太陽神の教えに沿った生活と行動が、文明全体を動かす力となった。陽光はその成果を、玉座で静かに観察し、冷徹に満足していた。


「感情を制御することで、光は秩序と利益を最大化する――これこそ、光の真の力だ」


陽光の眼差しの先には、民衆が光に照らされて自らの感情を律し、秩序の中で日々を生きる世界が広がっていた。山都谷教の教義は、単なる信仰の枠を超え、社会そのものを動かす制度へと進化していたのである。



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