第14章 太陽の宗教 ― 山都谷教の誕生 まとめ
第14章 太陽の宗教 ― 山都谷教の誕生
深夜の古代図書館。陽光は静かに書架の間に座り、埃を払った羊皮紙や崩れかけた写本の間に、手元の現代的な書物――楽天通販で購入した「自己対話マニュアル 深度1~12」を広げた。ランプの灯りがページを淡く照らす中、彼は独り言のように呟いた。
「本来はビジネスマン向けの自己啓発書……だが、言葉を変えればこれも“経典”になる」
深度1、「自己を見つめよ」は、陽光の手でこう書き換えられた。
「太陽の下に己を照らせ」
深度5、「仲間を信じよ」は、
「光は一人ではなく、多数を照らす」
深度12、「真実と和解せよ」は、
「太陽に背くものは影と消える」
自己啓発書の文言が、まるで太陽神の命令のように響いた瞬間、陽光の胸には新しい高揚が走った。彼は深夜を徹して文言を整え、注釈を加え、古代的な宗教語に翻訳した。こうして「太陽神の啓典」は誕生したのである。
数週間後、陽光は新たな宗教に名を与えた――**山都谷教**。神は太陽、そして教祖は自ら、**陽光王**としてその名を冠した。「光を地に下ろす者」としての使命を胸に、王は民衆に教義を伝える儀式を極めてシンプルに定めた。
朝――日の出に祈る。
正午――太陽に感謝を捧げる。
日没――「明日も光を」と唱える。
複雑な経典を覚える必要はなく、三度の光との対話だけで民は心を整え、教えを日常に取り込むことができた。商人も農民も、子どもも老人も、同じ太陽の下で同じ祈りを捧げる。民は自然に感動した。
「分かりやすく、すぐに実践できる」
陽光王は微笑んだ。宗教は人々の生活と結びつくことで、真の力を持つのだと理解していた。
次の段階として、王は**分身リーマン**を布教僧として各地に派遣した。都市の市場や取引所で、分身リーマンは巧みに説法を織り交ぜる。投資ゲームや商談の中で語られる言葉は、自然に民の心に入り込んだ。
「商売の誠実さは、太陽の光を浴びることに等しい」
「仲間を裏切れば、光を失い影に堕ちる」
農村では農作業を通じた布教が行われた。日の出前に田畑に立ち、光を浴びながら種をまく。それ自体が太陽神への祈りとなる。こうして山都谷教は、都市の商人と農村の民衆の両方に根付き、信仰と経済圏が一体化した。
しかし、山都谷教の拡大は、既存宗教勢力にとって脅威であった。長年地域を支配してきた教団は激しく反発し、会議の場では声を荒げた。
「太陽を神とするなど、野蛮だ!」
「新しい教祖など認めぬ!」
初めのうちは弾圧も試みられたが、山都谷教はすでに経済圏と深く結びついていた。弾圧すれば市場や農村の協力関係を崩し、自らの権威も損なうリスクがあった。やがて既存宗教は強硬姿勢を取り続けることが困難になり、最終的に選んだのは共存であった。太陽神の信仰は独立した地位を保ちつつ、既存宗教の儀式や祭礼と衝突することなく併存したのである。
山都谷教が確実に社会に浸透する中、玉座に座る陽光は静かに呟いた。
「宗教とは、剣よりも深く人の心を縛る。我らの経済圏を守る盾であり、時には矛となるだろう」
側近が慎重に問う。
「陛下、教祖が陛下その人であることを公表すべきでしょうか?」
陽光はわずかに笑みを浮かべた。
「今はまだ、“光を下ろす王”でいい。民はまだ、王と太陽神の距離を必要としている」
そして意味深に続けた。
「だが、いずれ時が来たら……太陽そのものと呼ばせよう」
王としての権威を保持しつつ、信仰の中心に自らを据える長期的計画。経済圏と民衆の信仰、既存宗教との共存をすべて掌握した上で、太陽そのものとしての存在を民に認めさせる日を、陽光は静かに見据えていた。
こうして山都谷教は、単なる新興宗教としてではなく、民衆の生活、経済活動、社会秩序の隅々に光を照らす宗教として、確実に存在感を増していった。太陽の光のように、教えは広がり、民衆の心を束ね、時には盾として、時には矛として、陽光王の意志を地上に届けるのである。
深夜の古代図書館で始まった一冊の自己啓発書の神格化が、光の下で民を導き、経済と信仰を統合する巨大な宗教へと成長する――そう、山都谷教はまさに太陽の如く、すべてを照らし始めたのであった。




